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「800字文学館」

ひまわり

池松 孝子

 八月の暑い日に立川の昭和記念公園に行った。ひまわりが見事に咲き誇り、その中の細い道を「迷路」にして、子供たちが「キャー、キャー」叫びながら走り回っていた。
 このひまわりの中に立った私に突然、映画「ひまわり」の哀愁に満ちたメロディーが蘇ってきた。南イタリアらしいソフィアローレンの姿、表情、それ以上にヘンリーマンシーニ―の音楽が私の心に今も棲みついている。
 終戦後になっても戻らない夫を探しにソ連へ向うが、その果てに見たのは、若いロシア娘と結婚し、子供にも恵まれた幸せそうな夫であった。
 ひまわりはロシアの国花、あの地平線まで続く一面のひまわり畑は、何万人もの兵士が犠牲になった場所である。翌年「兵どもが夢の跡」にあれだけのひまわりが咲いたという。また、あの映画はイタリア、フランス、ソヴィエトの合作映画である。五十年前、そんなことが可能だったのかなど考えさせられる。心の芯までずっしり響く映画であった。

 当時、小学生だった娘が自由研究でひまわりの観察をした。親子ともども一番注目していたのは、ひまわりは太陽の動きに合わせてその花の方向を変えていくのかということであった。
 朝、花は東を向いていた。そして夕方には西を向いていた。翌朝、娘が観察に出ていくとまた、きちんと東を向いていた。やはり太陽の動きを追って回るからその名がついていると喜んでいた。
 ところが花が満開を過ぎたころには、ずっと東を向いているというのだ。動きを止めてしまったとがっかりしていた。小学生の観察で、不十分だったかもしれないが。

 今のように写真で残すというのではない。変わり映えのしない日もあったと思うが、毎日、毎日根気よくスケッチしていた。種が茶色になっても、買い足した黄色のクレヨンで手を真黄色にしながら何枚もがんばって描いていた。

    向日葵の燃えてゴッホの絵となりぬ     前田陽子

 我が家にもゴッホがいるなどと、からかったりした。

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