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「800字文学館」

推理ドラマと藤田まこと

首藤 静夫

 籠り居のつれづれ、テレビの推理ドラマを良く見る。一回で片がつくのがいいし、人気のシリーズは再放送が多いので助かる。
 先日、藤田まこと「京都殺人案内」(和久峻三原作)の再放送を見た。2010年に藤田が亡くなるまで30年近く放映された刑事ドラマである。
 藤田が演じる京都府警捜査一課係長音川音次郎が主人公で、上司の秋山課長役の遠藤太津朗とやりあったり、かばい合ったりする人情味のある推理ドラマだ。
 出戻り娘の洋子(萬田久子)と二人だけで囲む昭和の食卓もよい。クライマックスではクロードチアリのギターがバックに流れ雰囲気を盛り上げる。久しぶりにほろりとさせられた。
 今は「十津川警部シリーズ」(西村京太郎原作)、「浅見光彦シリーズ」(内田康夫原作)などを見ている。これらもロングランの番組だ。
 推理ドラマの主人公は、執念深い刑事か私立探偵が多かったが最近はそうでもない。タクシードライバーだったりルポライターだったり、舞妓、作家、主婦、骨董屋など多彩だ。警察ものでも主人公は、左遷中の巡査や冷や飯食いの窓際だったりで昔の刑事物とは趣がかなり異なる。
 それなりに楽しいが、ストーリーがパターン化している。そのパターンに状況と登場人物だけ変えて設定し、一丁上がりと作られるようだ。「水戸黄門」や「遠山の金さん」の現代版という感じである。その中で片岡鶴太郎「終着駅シリーズ」(森村誠一原作)は昔の雰囲気を残しており、しんみりさせられる。

 藤田まことの老刑事役はいくつかあるが、いずれも良かった。アップの横顔も渋いし、少し猫背の後ろ姿は哀愁があった。刑事物に限らず、「必殺」「剣客商売」などでも、これが「てなもんや三度笠」で「あたり前田のクラッカー!」とやっていた人かと思ってしまう。彼は「てなもんや」のあと、長い冬の時代を経験した。復帰後も自分は不器用だから……と一つの役柄に専念したそうだ。
 役者の名にふさわしい一人だったと思う。

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