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「800字文学館」

グーグル・レンズは面白い

塚田 實

 娘が家族間Lineで、中国語で書かれた幕の写真を送ってきた。「遵守紅緑灯、先看右辺、再看左辺、確認安全后、再通過―警視庁」。「国道246号線の信号付き歩行者専用横断歩道の端にあった」との説明が付いていた。信号を無視して渡る中国人が多いのだろう。これを見た息子が、すぐ中国語を日本語に翻訳した写真を送り返してきた。「信号に従い、先ず右側を見て、次に左側を見て、安全を確認してから、渡ってください」。息子に尋ねた。「早いね。どうしたの」。「グーグル・レンズの翻訳機能からだよ」
 グーグル・レンズの無料アプリをアイフォンにダウンロードした。翻訳機能の他に、カメラを向けて検索ボタンを押すと、直ちに建物や植物の名前を列挙する。

 駒沢公園をよく散歩する。ススキのような背が高く花穂も大きい草があった。何だろうと、カメラを向けてボタンを押す。すぐ検索結果がでて、「シロガネヨシ」と表示して、説明が続く。家に帰ってパソコンで更に詳しく調べると和名「シロガネヨシ(白銀葭)」、英名「パンパスグラス」で「シロガネ」は白銀の花穂をつけることから名づけられたようだ。
 それからは知らない植物を見つけては検索する。「アマランサス」や「ヤブラン」など今まで知らなかった名前がどんどん出てくる。新しい散歩の楽しみ方だ。

 自宅近くの蛇崩川緑道を歩く。ハギを見つけてカメラを向ける。「ミヤギノハギ」と出た。夏から紅紫色の美しい花を咲かせるので「夏萩」とも言うらしい。宮城県の県花になっているが、「宮城野萩」の名称の由来は必ずしも定かではないらしい。
 神社の前に出た。またカメラを向ける。「駒留八幡神社」と出た。「どこにでもあるような神社風景なのに」。アイフォンにはGPS機能が付いているから、地図上から推定したのかもしれない。
 ふと気が付くと、一群のヒガンバナが咲いていた。「お彼岸だ」。大阪の両親の墓に向かって頭を垂れた。

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