比べる不幸
「幸せ」には、経済的な条件が大きく作用しているのではないか。
世界のどの国の子供が、より幸福と感じているか、ユニセフの調査結果について議論したときに指摘された観点の一つである。
この調査では、精神的な健康、身体的な健康、それに学問や社会生活を送る上での技術(skills)の三つを指標として評価しているが、経済的な側面が抜けているのでは、との疑問である。
経済的に恵まれている子供と、そうでない子供では当然、幸せと感じる度合いに差がでてくるだろう。しかし、ここで評価すべき基準は、絶対的な貧しさの度合いではなく、周りと比べてどうかということである。
ある国、全体が貧しい場合はあまり不幸とは思わないが、自分の身近にいる子供と比べて自分が貧しいと分かれば、不幸に思える。従って、「格差」の存在こそが、判断の基準となるだろう。格差を示す指標は「ジニ係数」である。簡単にいえば、全員の所得が同じで格差が全くない場合は0。一方、一人に所得が集中しているという極端なケースでは1となる。数字が小さいほど格差が小さい。
そこで、幸福度の順位と、ジニ係数との間の関係を知りたくて資料を捜すと、幸いネットに公表されている係数のデータが見つかった。エクセルを使って相関係数を求めると、算出されたのは0.7に近い数値で、予期した通りかなり強い相関関係があることが分かった。経済的な格差が大きい国の子供たちほど、幸福度が低いという、ある意味では当然のことが立証されたのである。
他と比べるということ。何も子供に限ったことではない。人間は、どうしても周りにいる人たちと比較して、自分の幸、不幸を判断してしまう。比べることで、己の不幸を自らが作り出している、と云ってもよいかも知れない。
禅の教えでは、他と比べそこに何らかの意味を見出す考え方を「妄想」と呼んで、厳しくこれを戒めている。さて、我々はそこから脱却して、不幸から逃れることが出来るであろうか。