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「800字文学館」

池上線に揺られながら

長谷川 修

 20年程前から大田区に住み、日頃は東急池上線を利用している。池上線は五反田・蒲田間と距離が短く相互乗り入れもないことからか、開業は昭和初期と古いのに知名度は低い。
 池上線との出会いは今から55年程前の大学時代にバイト先が沿線にあったことからで、当時の車両は木製の東横線の使い回しで3両編成だった。同じ頃東急系列では池上線のほかに旧目蒲線(目黒・蒲田間)と大井町線(大井町・溝の口間)があったが、3線ともに古い車両の3両編成で、路線距離は11~13km、駅の数は15~18と、よく似た三つ子の兄弟路線だった。
 あれから半世紀まず大井町線が変わった。1966年より逐次、溝の口から先を西に西にと延びる田園都市線と接続し、現在の大井町線は急行7両、普通5両だ。また旧目蒲線は2000年に分割され、蒲田・多摩川間は東急多摩川線、多摩川・目黒間は目黒線となった。多摩川線は枝線となり昔と変わらないが、目黒線は、南は日吉まで延び、北は目黒から先を地下鉄線との相互乗り入れで都心を縦断し、急行、普通ともに6両だ。三つ子の兄弟のうち2人は大きく育ったが変わらないのは池上線で、車両こそ立派になったものの相変わらずの3両で、急行もなく普通のみだ。
 1976年に発売されヒットした曲に西島三重子の「池上線」がある。当時新人歌手の西島は東急との共同プロモートを申し入れたが、歌詞に「古い電車のドアのそば」「すきま風に震えて」とあり、東急側は池上線のイメージを悪くすると断った。近年の東急は池上線の知名度を高めることに注力しており、池上線開業80周年の07年には西島を迎え特別電車「名曲池上線号」で車内コンサートを開いた。
 相互乗り入れがなく距離が短いことは事故・遅延に合うことが少なく、また、急行のないことは追越し・待合わせを考えないで来た電車に乗れば良い。のんびりと走り、どこかから「池上線」のメロディが聞こえてくるような池上線を愛しく思う。

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