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「800字文学館」

名古屋めし

浜田 道雄

 名古屋人は自分たちの故郷を「偉大な田舎」と呼ぶ。東京や京都、大阪のような大都会ではないし、自慢できる文化もないからだという。
 だが、そんなことはない。名古屋は間違いなく大都会だし、ちょっと変わってはいるが、独自の文化だってある。例えば 「名古屋めし」がそれだ。

 筆頭は「ひつまぶし」だろう。折角の蒲焼を1センチ幅弱に刻んでしまって、たっぷりとタレをかけて飯に乗せる。そのまま食べてもいいのだが、だし汁をかけて茶漬けにすると、これがまことにうまい。蒲焼は白焼きしたあと一度蒸して油を抜き、タレをつけてまた焼上げる「江戸前」が一番だが、この「ひつまぶし」の茶漬けはまた別ものの味だ。

「名古屋めし」には赤味噌を使ったものが多い。名古屋人の赤味噌好きが昂じた結果だろう。なにしろ朝飯には赤出しがなくてはおさまらない彼らのことだ。鍋焼きうどんを味噌仕立てにして「味噌煮込み」にしてしまうし、おでんも濃い味噌汁で炊いて「味噌おでん」にする。とんでもないことには、トンカツも味噌ダレをかけねば食わない。

 こんな奇妙な食い物を発明した名古屋人を素っ頓狂なアイデアマンだと貶すのは簡単だが、それはハヤトチリというものだ。実はこの「名古屋めし」、どれをとってもうまい。とくに大根を5センチほどの輪切りにして味噌だしで何日も煮込んだおでんなど、芯まで味噌味が染み込んでいて絶品だ。真冬に熱燗で一杯やりながら熱々のおでんにかぶりついたら、病みつきになること間違いない。
 だが、問題はある。味付けだ。「名古屋めし」はかなり甘味で、こんなものを毎日食ってると身体中甘くなって、人間もヤワになっちまうんじゃないかと心配になる。

 といって、名古屋人を甘いと侮ってはならない。彼らは甘いどころか、かなり吝いのだ。だから、「名古屋は偉大な田舎」という彼らの謙遜も話半分に聞いておくのがいい。その腹の中には相当なお国自慢が詰まっているに違いないのだ。

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