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「800字文学館」

洪水対策はどこまで

首藤 静夫

 台風や大水には無頓着だった。テレビの報道を見てもどこか人ごとだった。それが昨年10月の台風19号で気持が一変した。近くの多摩川が増水、あと1メートルで堤防を超える高さに上昇し、避難も経験した。車は水に浸かり廃車の憂き目に。
 怖さが身についた。床上浸水のお宅では1年たった今でも復旧工事中である。台風シーズンを前に人ごとではなくなった。
 家の回りを見回る。自宅前の路面はまずまず高い。その路面から玄関口まで75センチある。少々の出水には対抗できる。しかし、家の周囲に床下換気口が10口ある。路面からの高さは40センチだ。
 (うーん、ここが問題だなあ)
 なじみの工務店の兄いに相談した。お宅は問題ないでしょ!と渋るのを何とか来てもらった。各換気口のそばには昨年の洪水後に区からもらった土嚢が10数個おいてある。これで十分ですよと兄いは言うのだが、換気口の場所が問題なのだ。
 大変なのは1階のベランダ下。這いつくばって土嚢を出し入れせねばならない。また、給排水ホースが複雑に入り組んで土嚢では片がつかない口もある。
 忙しいという兄いをせっついて換気口を厚い鉄板で覆ってもらうことにした。普段は鉄板を口の横に外しておき、いざという時それを口に取付ける。蝶ネジで固定するので僕でも簡単にできる。ベランダの下、複雑な形状の2カ所は、結局永久に閉じることにした。ウレタンの泡で塞いだところもある。
 換気口を2カ所閉じたため思わぬ事態になった。換気風量が不足するという。構わないというのに、そうはいきませんとなって、揚句は床下に空気の攪拌機2機、ボロワー3機を取付けるすごいことになった。なんたる出費。兄いは、だから言ったじゃないですかという顔をしている。
 少しは防水対策になるだろうが、心配するときりがない。水位がさらに上がったら、玄関、窓サッシの隙間から入る水をどうしよう。さらに多摩川が決壊したら……。
 引っ越すほうが早そうだ。

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