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「800字文学館」

きらきら星変奏曲

川口 ひろ子

 私のお気に入りモーツァルトの「きらきら星変奏曲」は、各地で行われるピアノの発表会で必ず演奏される人気曲だ。ユーチューブで「きらきら星変奏曲」と入力すると、23,000余りの画像がヒットする。全国の少年少女が無心に演奏する姿が多く、真に微笑ましい。

 正式名称は、「ああ お母さん あなたに申しましょうによる12の変奏曲ハ長調 K(ケッヘル)265」。原曲は18世紀後半にフランスで流行した民謡で、好きな人が出来たことを母親に打ち明ける恋の歌だ。この頃パリに滞在した少年モーツァルトは、この旋律を何度か耳にしたのであろう。後にウィーンに移った25歳の頃、これを基にピアノ変奏曲として作曲したのがこのK(ケッヘル)265である。
 変奏曲と言うジャンルは本来即興演奏の性格が強いもので、神童ぶりを披露するためにヨーロッパ各地を旅したモーツァルトは、しばしば演奏会で、その土地の民謡などを即興で変化させて演奏し、聴衆を驚かせたと云う。人々は、お馴染みの歌が、巧みな技巧をこらして演奏され、姿を変えて現れるのを大いに楽しんだのであろう。
 この旋律は19世紀に入ってイギリスに渡り「きらきら光る小さな星よ……」という童謡となる。その後も各国語に翻訳され世界中で歌われるようになった。また、幼児にアルファベットを覚えさせるための「ABCDEFG……」のメロディも今日健在だ。

 コロナ禍でほぼ8ヶ月間総ての公演は中止となり生演奏が聴けなくなったが、昨今、僅かながら演奏会の案内も届くようになり、音楽は絶対ライブ派の私は喜んでいる。
 そんな今年も秋は確実にやってきて、今夜は部屋でゆっくりCD鑑賞だ。先ずは「キラキラ星変奏曲」。演奏は、今やベテランの横山幸雄。現代の空気をたっぷりと呼吸した働き盛りの男性ピアニストが弾く活きの良い「キラキラ星」だ。古楽風の軽いタッチから生まれる緻密な響き、ジャズ風の乗りの良いリズムが、名器スタインウエイをダイナミックに鳴らして心地よいことこの上ない。

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