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「800字文学館」

花豆

池田 隆

 ベランダに腰掛け、2時間ちかくも黙々と干乾びた鞘から豆を取り出している。暖かい秋の日差しを受け、糸くずのようなカラマツの葉がパラパラと背中に降り注ぐ。幅2㎝長さ15㎝ほどの鞘に1.5㎝大の丸々太った紫のまだら模様の豆が5粒も入っている。
 全部で2㎏ほどの収穫になりそうだ。6月初めに10数粒の種を地中に挿しただけなのに、良くぞこんなに増えたものだ。多摩で家庭菜園をやっている親しい友人に、「生まれて初めてだが、蓼科で俺も畑を借りてみた」と話したところ、「それなら是非とも花豆を植えろ。ほんとに旨いから」と言われたのが切っ掛けである。

 インターネットで調べると、「花豆は低温を好み、北海道や長野県などの冷涼な地域で栽培され、鮮赤色の大きな花をたくさん咲かせるのが特徴。豆粒は際立って大きく、「高級菜豆」として煮豆、甘納豆の原料になる。江戸末期に伝わり、もっぱら観賞用に栽培されていた。食用栽培は明治期に札幌農学校で始められた。云々」とある。

 「ずぶの素人の俺では、」と思いながら2m高さの支柱を立て、ネットを張った。後は何もせず花豆まかせ。元気よく芽を出し、蔓を絡ませドンドンと伸び、背丈より高く葉を茂らせた。真夏には美しい赤い花を咲かせ、周囲の緑を鮮やかに彩っていく。やがて無数の大きな鞘を垂らし、そのままカラカラと茶色に乾いていった。
 花豆のほかにもトマト、キュウリ、ナス、レタス、ブロッコリー、枝豆など、20坪の畑に種々の苗や種を植えてみたが、つぎつぎと取れるので年寄夫婦はそれらの料理法に毎日頭を捻っていた。カボチャは1本の苗から10数個の大きな実をつけ、今は納戸でゴロゴロ。畑に残るはサツマイモ、ニンジンと落花生、秋の収穫も楽しみだ。
 有機肥料を元肥として与え、茂りすぎた枝葉を透かす程度の手間しかかけない無農薬栽培だったが、病虫害に悩まされることもなかった。改めて太陽や大気、大地の偉大な恵みを実感したこの夏を思い返す。

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