ハロウィーンの季節に
ハロウィーンの季節である。この祭りが日本に現れて二十年以上だろうか。渋谷のセンター街も今年は自粛の由である。数年前、渋谷がメッカを宣言し、第一回のときは、前日にリハーサルのおまけが付いた。物書き老人クラブの友人三人で、スマホならぬデジカメを携えリハーサルに飛び込み、開放感あふれる女人達の変装三昧振りを収める。曰くマリリン・モンロー、曰くオスマンの後宮の側女達、彼女らと意味のない会話を交わしながお祭り気分に浸ったものだ。この輸入されたアメリカ版ハロウィーンは、ケルトの信仰に由来し、その大晦日の晩に行われる悪霊除けの祭りは、幾度となくニューヨークのエリス島に上陸したアイルランド移民により齎された。今や全米にまたがる文化として根ずき、東京もお零れ頂戴、カボチャのジャック・オー・ランタンをシンボルに狂乱の夜を楽しむ。
もう五十年も経つが、初めてのニューヨーク生活、三歳の息子が、アパートの下の階の四歳のジェフ君に誘われ、お揃いの極彩色仮装をつけて、”Trick or treat!”と、近所を廻り大喜び。「お菓子を呉れなきゃ、いたずらするぞ」そのお菓子たるや、どの家もこれ以上不味い物はない、最低のキャンディーを大袋に詰め込んで、子供等の来訪を待つ。
アイルランドが深いカトリック教国のためか、この祭りはキリスト教の暦「万聖節」(十月三十一日から十一月二日)と結び付いており興味深い。All Saints’ Day と呼ばれ、死者を記念する期間なのだ。英国でハロウィーンを見ることはないが、この時期、ガイ・フォークス(1607年議会爆破陰謀の咎で逮捕され処刑された)の恐ろしい人形が道路に投げ出されていた。
欧米では、この時期、鎮魂ミサ曲であるレクイエムの演奏が盛んである。モーツアルト、フォーレ、ヴェルディ、ブラームスなど、いずれも大作曲家達の創作意欲を突き動かした名曲揃いである。センター街のハロウィーンの灯を辿ると、時空を超えて煉獄を彷徨う人々の魂に行き着くのだろうか。