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「800字文学館」

作家が愛した料理屋

塚田 實

 北大路欣也主演のテレビドラマ「三屋清左衛門残日録」を観た。清左衛門は日記「残日録」の冒頭「日残リテ昏ルルニ未ダ遠シ」と書き、現役を退きながらも元用人として藩の様々な問題を解決してゆく。原作は藤沢周平で、出身地山形県鶴岡の情景が豊かに描かれている。1993年からNHK「金曜時代劇」でも、仲代達也主演で全14話放送された。
 作家で日本銀行副総裁も務められた藤原作弥氏と食事をする機会があり、氏の勧めで銀座一丁目にある古民家風の庄内料理店「おば古」を訪れた。藤原氏は藤沢の紹介で何回もお店に来たそうだ。藤沢ゆかりの2階奥の部屋に案内され、「あんかけ料理」や「えごの辛子酢味噌」などの料理を、山形の地酒「くどき上手」とともに楽しんだ。

 江戸文化に詳しい某新聞社の方と「かど家」で何回か食事をした。両国駅に近い「かど家」は、池波正太郎の「鬼平犯科帳」で、料理屋「五鉄」のモデルになった店である。長谷川平蔵が密偵の報告を聞きながら軍鶏鍋を食べていた。八丁味噌をベースにした鍋が評判で、池波正太郎も贔屓にしていたという。池波が定席にしていた、1階奥の坪庭に面した部屋に案内され、軍鶏鍋を注文した。仲居さんがレバー、砂肝、ハツ、皮、ももと順番に入れ、ネギを足して、卵でいただくと、味噌の濃い味が染みて何とも言えず美味しい。最後は「ひもかわうどん」を放り込んで締めた。

 ところが改めてこれらの店を調べてみると、どちらも2018年に閉店したとある。作家たちも愛した江戸情緒たっぷりの味わい深い店が、平成の終わりとともに閉店になったのは寂しい。

 一方、調べると東北自動車道上りの羽生パーキングエリアに「鬼平江戸処」という町が作られ、ここに親子丼を初めて出したことで有名な人形町の鳥料理屋「玉ひで」が、「五鉄」という店を出し、軍鶏鍋を提供しているという。まだ訪れたことはないが、コロナが落ち着けば、一度訪れてみたい。

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