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「800字文学館」

宇宙太陽光発電

児玉 寛嗣

 菅首相が所信表明演説で「2050年までに二酸化炭素の排出量をゼロにする」(排出量と光合成などによる吸収量を同じにする)とぶちあげた。先進国で宣言を出していないのはアメリカと日本だけである。大統領選挙で環境問題を主要テーマに掲げるバイデン候補が勝つと宣言することもあり得るのでそれに備えたのだろう。だが、実現の方法の具体策は示されなかった。

 再生可能エネルギーで得られた電気をあらゆる分野のエネルギー源に資するという発想はどの国も同じである。電気自動車がまず頭に浮かぶ。船、航空機は再生可能エネルギーで作った電気で水を電気分解し、水素を抽出し、超高圧で圧縮し液体燃料として使い二酸化炭素の排出をゼロにする。セメント工場や製鉄などでは生産過程で二酸化炭素の排出は避けられないが電力を使ってそれを地中に埋めようとしている。いずれも技術革新でコストが下がることを期待しつつ開発中だ。
 しかし、再生可能エネルギーの代表格である太陽光、風力の難点は天候に左右されること、太陽光は夜間電力が賄えないことである。蓄電池に電気を蓄え、電力の需給バランスを調整するために大容量蓄電池の開発競争にしのぎが削られている。今後の大容量蓄電池の利用が拡大していくことだろう。

 一方、宇宙空間に太陽光発電所を作り、地上に電力を送るという技術の開発も進められている。発電衛星を浮かべて、電気は電子レンジで使われている電波、マイクロ波に変換して送るという計画だ。太陽光パネルの大きさはゴルフ場がすっぽり入るくらいものだ。地上や海上に設置するアンテナの大きさも太陽光パネルと同じ規模である。宇宙は常に快晴で日夜、安定して発電し続けることができる。しかし、電気をマイクロ波に変換して長距離を精度よく送る技術の開発など課題も多いことから、実現時期は明確には見通せてはいないが、。「2050年までにゼロ」の宣言にこの壮大な計画が寄与できるか否か、興味深いところだ。

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