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「800字文学館」

コロナの時間にさそわれて

安藤 晃二

 ある日の夕方、会合のため吉祥寺駅で下車する。歩きながら、予定より30分も早いことに気付く。そう、コーヒーだ!と思った途端、無性に飲みたくなる。見渡すと、有名なカフェチェーンEが目の前だ。渡りに船とドアを押す。店内の様子に何とも言えない圧迫感を感じる。先に席を決める様レジに要求され、見まわしたのだが、一見して、若者で満員、皆独り席で、ラップトップが溢れ、お疲れの若い女性がテーブルに髪を投げ出し突っ伏して眠っている。皆憂さ晴らしの為か、彼等はカフェに陣取り長居をするのが習慣らしい。密な群衆の体臭に襲われ、もう空席が無い事を切望している自分に気が付いた。心得顔のレジに目配せして最悪のコロナ環境のリスクから脱出し、ほっと深呼吸。

 方針変更、横丁を歩くと、前世紀のレトロ調が売り物のT屋「珈琲店」の看板、入って見て印象を受けた。妻木の広い床に木目調のテーブル席と、カウンターも有り、奥にキッチン、何とも雰囲気のある構えである。軽い「洋食」も出すらしい。単行本を読む若い女性、テーブルに一組の老夫婦が食後のコーヒーを注文している、客はそれだけである。一杯喫して直ぐに出ようと、テーブルに落ち着き、コーヒーを入れる六十がらみの亭主の作業を見るとはなしに眺めていた。ブレンドをと注文したので、既につくられ温めてあるコーヒーを直ぐ出して来ると想像した。しかし、次に起こる光景に仰天した。豆の袋を破りミルが唸る。ドリップはカップ毎にフィルターを替え手作業で注ぐ。私の分は別の豆袋から、老夫婦は別種を注文したのだ。ゆったりした時間に待たされる。出されたカップで二度吃驚、ボーンチャイナはWedgewood か。会合への遅刻は腹をくくり、その香りと染み渡る味を、コロナ等忘れ、Eカフェの二倍の値段の珈琲をしばし堪能する。

 パンデミックが人々の効率量産指向の心に警鐘を鳴らし、我々の行動、習慣の在り方にさえ影響を与えて行くのであろうか。

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