金券「狂騒曲」
朝早くから予想以上の長蛇の列ができた。どうにも収拾がつかなくなり、取りやめとなってしまった。
K市の商工会議所が、コロナ禍で困っている商店街を助けようと、企画したプレミアム商品券の販売である。500円の商品券の6枚つづり、額面3000円の券を2000円で売るというもの。
一人5セットまでという制限が付いているものの、1万円で1万5千円の金券が手に入るというのだから、多くの人達が殺到したのもわかる。東京では、25%のプレミアム付きの「Go to イート」と称する食事券を売り出したら、長い行列が出来た。予約済みの人たちで、貰えることが確実なのに並んでいるのである。
愛知県のある市長選挙では、市民全員に5万円の現金を給付することを公約に掲げた候補者が当選した。だが市長に就任後、その公約を果たせずに窮地に立たされていると報じられた。同様の事は、兵庫県のある市長選挙でも起こった。いずれも、「お金」の強い力を如実に示すものだ。
ことの始まりは、今年の夏、政府が打ち出したコロナ危機への対応策である。全国民に一人当たり10万円ずつ現金を給付するという思い切った策だ。およそ12兆円という膨大な経費を要するが、政府には資金調達を可能にする手段がある。国債の発行だ。しかも、その国債は最終的には、日銀が引き受けてくれることが約束されている。
市が行う場合と決定的に違うのはこの点である。市の場合、市民は一時的にお金を貰っても、いずれ税の形で自分で埋め合わせをしなければならない。
ここで、例えば30%プレミアム付きの商品券について考えてみる。全商品3引の大売り出しと、基本的にはあまり違わないと思うのだが、大売り出しの場合は、混乱を生じるほど大勢の客が殺到することはない。
やはり、「お金」に近い形のものが貰えるとなると、人は目の色を変えるようである。
こんな時、いつも頭に浮かぶのは、
「……それにつけても 金の欲しさよ」、という言葉だ。
注: 「それにつけても……」は室町時代の連歌師、山崎宗鑑が、どんな上の句にも
つながる下の句として作ったものといわれている。