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「800字文学館」

女郎花

池松 孝子

 この時期、澄み切った秋の青空と女郎花の黄金色のコントラストが何とも美しい。私の大好きな配色だ。ご存知、秋の七草のひとつ。
 毎朝、歩くコースに皆さんに見せたいポイントがある。遠く西のかなたに頭に雪を頂いた富士山が顔を出す。その手前、足元から前の道に沿ってすすきの群生。その中にたくさんの女郎花の花だ。冷えた朝の空気の中、富士山頂の白、すすきのベージュ、そして女郎花の金色が同時に三色楽しめるのだ。ここは四キロのウオーキングの最後の見どころで、しばらく足を留める。秋の早朝の醍醐味である。

     黄が宙に浮くがごとくに女郎花      丑久保 勲     

 女郎花に対して男郎花がある。同属で姿はなんとなく似ている。男郎花と比較しての話であるが、女郎花は全体の印象として優しい感じがある。まっすぐ立った茎が上部で枝分かれして確かにたおやかな感じはある。一方、男郎花は花の色は白で、立ち姿や茎からはずんぐりした逞しさが感じられる。男、女とすることでよく似た、色の異なる花を識別するとは面白い。

 女郎花は日当たりを好み、山野に自生する。近年の開発により山野が減ればおのずと自生する女郎花も減少する。最近、花屋で園芸種を目にする。自生しているものに比べると多少、矮小化している分、繊細にも見える。

 以前、お花の稽古で使った女郎花を家に持ち帰り、生け直して玄関に飾った。翌日、家族が「何か変な匂いがする。臭い」と言い出した。犯人探しが始まった。娘はネズミの死体じゃないかと言い出した。原因を見つけられないまま諦めようとしたそのとき、玄関の女郎花を見て「これだ!」と一斉に声をあげた。

 なんで女郎花がこんなに臭いのかと調べた。女郎花は「敗醤」ともいわれる。特に生けていた鉢の中の水は、醤油の腐ったような匂いがすることが分かった。

 最後に、これが女郎花の歌であることを楽しんでほしい。

   をぐら山みねたちならしなく鹿のへにけむ秋を知る人ぞなき

                      紀 貫之

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