ウィズコロナの博物館
高校時代の友人から、東京都美術館で開催の「東京書作展」への招待状をもらった。白居易の詩「送客回晩興」を揮毫して出品したという。「そうだ、上野に行くなら、久し振りに東京国立博物館にも行ってみよう」と思いついた。
先ず、都美術館に立ち寄り、友人の作品をじっくり観た後、紅葉を眺めながら博物館に向かう。平成館で「桃山―天下人の100年」展をやっていた。コロナの影響で入館にはオンラインによる事前予約(日時指定券)が必要で、金曜日の午後2時半を予約していた。少し早めに正門前の会員受付窓口に寄る。休館があったので、友の会会員証の期限延長手続きをするためだ。私の会員証有効期限は、休館日分96日間延長された。
いつもの特別展と違って、平成館の外に入館待ちの行列はなく、中に入ると日時指定券を持った人が、何人か並んでいるだけだった。展示場の入口には「ソーシャルディスタンスを保つこと」「会話を控えること」「90分で回ることを推奨」の注意書きがあった。オーディオ案内もない。
会場は空いていて、人の頭越しに見るしかなかった展示物が間近に見える。
日本水墨画の最高傑作の一つと言われる長谷川等伯の「松林図屏風」の前に立つ。大きな屏風の前に2、3人ほどしかいないので、たっぷりと時間をかけて、靄に包まれた水墨画の微妙な濃淡を心ゆくまで楽しんだ。
狩野永徳の「檜図屏風」は四曲一双の大きな絵で、後ろに下がったり、近づいたりして観た。檜の上下が画面をはみ出す大胆な構図は印象に残る。枝ぶりも自由奔放で、まるでダンスを踊っているように見えた。
多くの国宝、重要文化財などを、約90分ゆっくりと静かに楽しむと、ウィズコロナの新しい博物館を発見したような気がした。
帰りに本館の近代美術室に立ち寄った。高村光雲作の「老猿」を観るためだ。「老猿」は斜め右上を睨み「コロナには負けないぞ」と力強く言っているように見えた。