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「800字文学館」

モノの値段

斉藤 征雄

 ガスレンジで魚を焼こうとしたが点火しない。何度もカチカチやって最後にもう一度と思ってひねったら、ボンという大きな音と爆風とともに炎が噴き出した。
 機器の老朽化が原因、買い替えることにした。

 ビルトインガスコンロは、プレミアムからハイグレード、スタンダードまで多種に亘る。高級なものは多彩な調理が可能であるが、その代わり値段が高い(約四〇万円)。わが家ではそれほどの高度な機能は必要ないので、せいぜいハイグレードあたりが適当だろう。
 機種の選択には、グリルの機能、天板やゴトクの素材・色、掃除の簡便さが重要な要件である。これらの判断はカミさんの領分、娘たちを巻き込んだ議論の決着を待つ。私は求めに応じてネットで調べて資料を提供するほか、ガス会社の横浜のショールームや家電量販店の売り場などへも付き合った。
 ようやく機種が決まった。あとはどこで買うかである。

 ガス会社はメーカー各社の製品から「おすすめ」機種を選んで推奨していて工事やアフターケアも信頼できるが、メーカー希望価格に近く総じて高い。
 価格はやはり家電量販店が安く、加えてポイントが付くのも魅力である。
 しかし娘が「通販はもっと安いよ」というので家電量販店A社のネット通販を調べると、目指す機種がメーカー希望価格の60%で出ている。そこで念のため通販大手のB社も見てみると、なんと43%で出ているではないか。
 A社の店舗へ出かけてA社の通販の値段を示すと、店員がスマホで調べて「確かにそうですね。その価格で結構です」と言う。そこで試しに「B社はこんな値段ですが…」と示してみると、それまでのにこやかな顔が消えて「少しお待ちください」と言って上司に相談していたが「50%にします。他にポイントが15%付きますから…」と即座に値下げの返事。

 競合店と同じにしますということだが、不当な値下げを強要したようで申し訳なく複雑な気持ちがした。モノの値段は一体どうなっているのだろうか。

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