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「800字文学館」

全米オープンテニスと大坂なおみ

吉田 眞人

 9月の全米オープンテニスで、大坂なおみが2年ぶり2回目の優勝を飾り、最近の不振から見事に復調を遂げた。
 今回は折からのBLM潮流の中で、黒人犠牲者の名前が入ったマスクを着用して入場したことが話題を呼んだ。表彰式のQ&Aで「あのマスクを着用した事のメッセージは?」と聞かれ、「人々が話し合いを始めたら良いと思って」と答えた、とのみ日本では報道された。併しこれでは不十分だ。彼女はこの答えの前に「あなたはどういうメッセージを得ましたか?それが質問するより大切な事です」と言っている。即ち、他人事として聞いてくれるなと言っているのだ。大人の発言であり、今回の勝利は、あのマスクに後押しされたもの、とも言える。(但し、ウィンブルドンではあのマスクは許可されないだろう)
 2年前の日本の報道は更に酷かった。決勝戦は、セリーナ・ウィリアムスが判定を巡って審判と揉め、罰打を課され、これに会場がブーイングする等、騒然となった。表彰式も、何故かセリーナのスピーチが優先され、これに煽られた形でブーイングも続いた。この後なおみが、「こんな形で終わってしまい、ごめんなさいと謝った」と日本のマスコミは報道した。且つ、日本人らしく謙譲の美徳を発揮した、という賛辞も添えた。これは全くの誤訳だ。原文は、I am sorry, it had to end like this. で、この場合は、“残念だ”と言う意味だ。例えば、好ましくない知らせを聞いたときにはI am sorry to hear that. と言い、その知らせが訃報ならば、この表現はご愁傷様という意味になる。そもそもあのケースで彼女が謝る理由は全くない。彼女は国際人であり、何でも謝罪をするが勝ち、というようなメンタリティは持ち合わせていない。
 昔、小生が英国から帰任する際にヤングミセスである秘書から記念品を頂戴したが、次のカードが添えられていた。 “Sorry, to see you go.” さあ、どう訳しますか?

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