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「800字文学館」

データ中継衛星

稲宮 健一

 十一月二九日にデータ中継衛星の打上成功が報じられた。この衛星は光を通信に使い観測衛星が取得した大量の地上の写真や大気等の観測データをこの衛星経由で中継し地上に転送する。今や詳しいことは分からないが、最初の頃のデータ中継衛星(DRTS)に深くかかわった。もう三十年以上前である。

 昭和四十年頃、東大宇宙航空研究所は内之浦で日本初の衛星の打上に挑戦した。目的はとにかく衛星を軌道に投入し実績を作りたい。搭載機器は単調なビーコン信号の発信機だけ。一方、宇宙開発事業団(現JAXA)は日本初の実用衛星の達成のため、米国の技術を導入して静止衛星の実現達成の活動をした。東大の衛星はロケットから切り離すだけ。これに対して静止衛星の場合、切り離した後、数多くの高度な指令操作を地球上の管制局から衛星に向かって電波で送信が必要だ。

 国内で飛翔中の衛星と交信できる地球局は勝浦、増田、沖縄の3局しかなく、静止手前の地球上を周回中の衛星に随時指令を与えるには我が国単独では達成できない。衛星の製造を国内でできても、静止衛星を実現するするためには、地球規模の通信の支援網が欠かせない。JAXAの場合、NASAの世界の追跡網(南北アメリカ大陸、大西洋、オーストラリア所在)と日本の3局を結び、世界中の情報が筑波の中央管制所に接続され始めて地球上を飛び回る衛星を日本から操作できる。ここで初めて世界中に随時宇宙との交信ができる地球規模の組織活動を必須になる。

 この世界中の多数の追跡管制局の役割を静止軌道に打ち上げた衛星で代替するため開発されたのがデータ中継衛星である。しかし、地球上の全管制局をこの衛星で代替はできず、現在は地球上の局と宇宙上の局(宇宙局)と併用している。そして、DRTSを投入することで、多数打ちあがっている観測衛星(気象、大気、海洋などの観測)や国際宇宙ステーションのデータの大量のデータをDTRSの光回線で地球に転送することに関心が移ってきた。

世界の管制局例、ゴールトストン、マドリード、キャンベラ、キルナ等

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