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「800字文学館」

コロナ禍で変わるか、伝統芸能

長谷川 修

 NHKの『シブ5時』を見ていたら好角家の能町みね子さんが、大相撲の7月場所について「こんな上品な相撲見物は初めて」と言っていた。3月の中止、5月の無観客に続いて7月は、観客数を4分の1に制限し、声援の自粛、応援は拍手のみで行われたが、場所後の感想は彼女らしく短くて的確だ。
 コロナの影響はあらゆる分野に及んだが、特にスポーツ界やエンタメ界は壊滅状態となった。私が永く親しんできた落語と歌舞伎の様子を見よう。
 寄席が閉鎖となり落語会が次々と中止となる中で、まず動いたのは春風亭一之輔だった。4月下席のトリで出演予定の時間に合わせ、動画で10日間連続の無料配信を行ったところ、延べ100万人の視聴者があり投げ銭も想定外に多く集まった。彼の試みと成功は後に続く者に勇気と仕事をもたらし、昨今はオンライン落語会や有料のライブ配信が隆盛だ。ただ某落語家の言によると落語はやはり生が1番で、オンラインでは演者と観客に双方向の交流がなく一方的になり、観客の反応を勝手に想像しながら演じているがやりにくいとのことだ。
 歌舞伎もまた様変わりだ。3月の歌舞伎座は突然に休演となり、お詫びに無観客公演を無料配信した。5ケ月間の閉鎖の後8月に再開された公演は、4部制を採り交代時間に観客も演者も全員を入れ替え、消毒をする。観客は劇場定員の約半分とし、大向こうの掛け声も禁止なので観客の出番はない。出し物も、大きい声を出さず出演者は少なく花道を使わない演目が選ばれているようで、劇場の盛り上がりも今ひとつだろう。また、「図夢(ずぅむ)歌舞伎」や公演の有料ライブ配信を始めたが、評判はどうだろうか。
 伝統芸能が今後どう変わるのかそれとも変わらないのかは興味深い。歌舞伎や落語はこれまで何度か危機に瀕したが、その度に自らを変えて生き延びてきた。コロナが収束した後の歌舞伎や落語を観てみたいが、「上品過ぎる歌舞伎」、「冷静過ぎる落語」は願い下げだ。

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