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「800字文学館」

コロナ退散ー白澤の出番です。

大月 和彦

 20年ぐらい前、修験道で知られる信州戸隠神社のある宿坊の蔵から、化け物のような奇怪な動物の版木が見つかった。「白澤避怪図」の題字と漢文で書かれた説明文、下半分に白澤の姿が描かれ、末尾に「戸隠山」とある。

 牛のような身体に人間の顔、あごひげを蓄えている。眼は顔と背中の左右に3個ずつ計9個、角が額と背中の左右に2本ずつ計6本生えている。顔には宝珠らしいものを戴せ、飄然とした雰囲気を漂わせている。赤い蛇が現れたり、鶏が軟らかい子を産んだり、鶏が宵に鳴いたり、蛇の交尾が見られるなど奇異な事象が起きたら、白澤の図を掲げ、呪文を7回唱えれば忽ち厄神が逃げると、効能を説いている。白澤は、中国に伝わる麒麟や鳳凰などと同じ想像上の動物。聡明で人間の言葉を解し森羅万象に通じている。民の害を取り除き、明徳の帝が世に出れば現れる瑞祥と信じられていた。

 中世以降参拝者が多かった戸隠山では、白澤の図を刷り物にして、厄災・・疫病除け、開運などご利益のある縁起物として信者に配っていた。安政年間にコレラが流行したころ出回ったといわれている。

 同じような白澤の図が、越後魚沼の八海山や秩父の武甲山御岳神社で最近見つかっている。。『和漢三才図会』に白澤の項目があり、江戸時代には白澤信仰が各地で行われていたことがわかる。江戸本所の羅漢寺に白澤像が祀られていて、川柳に「白澤を見てまた250人」と詠まれるなど親しまれていた。

 最近、京大図書館所蔵の江戸時代のものといわれる半人半魚の妖怪―アマビエーが疫病除けに効験があるという噂が広がり話題になっている。京都のある寺院はアマビエの図をコロナ退散の護符として頒布している(冥加料800円)。厚労省はアマビエの図入りの「STOP! 感染拡大-COVID-19」のアイコンを流すなど感染症対策の啓発に一役買っている。

 戸隠神社では、長い間埃にまみれていた「白澤避怪図」を復活させ、「新型ウィルスに打ち勝つためのお守り」として1体500円で授与し始めたという。

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