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エッセイ・コラム 体験記・紀行文

5年ぶりのタイ

大平 忠

 3月末に5年ぶりでタイへ行ってきた。3年半前にできたという新しい空港に初めて降りた。空から見てその広いことに驚いた。後で聞いたら、敷地は成田空港の3倍、目下世界一だとか。空港の名前の「スワンヤブーム」がいい。「黄金の土地」という意味だそうだ。
 タイは美しい。バンコックを一歩出ると、かっと燃える太陽の下、すべてが緑につつまれている。その緑の中に、真紅と黄色の鮮やかな花が点在し、まさに「黄金の土地」だ。緑は人の気持に安らぎを与える。さらに、屋台のおばさんまでにっこりしてくれるのが嬉しい。「微笑みの国」の看板に偽りはない。
 約1週間、主として日系企業の工場を訪問した。リーマンショックからの回復は早く、もとの成長路線に戻ったという。ある工場では5年前の3倍に生産がふくらみ、新しい土地をすぐ手当てしなければと焦っていた。来年末までフル稼働の注文が入って、新しい注文を断わっている工場もあった。インドとタイのFTA(自由貿易協定)が締結されたので、またビジネス・チャンスが増えると言う人もいた。
 元気な日系企業で、何人かのシルバーパワー溢れる人に出会った。定年後タイに来て働いている人たちである。どの人も、いきいきとした表情だ。日系企業の若い日本人なり、タイ人の教育をしている人は、教え甲斐があって楽しいと言っていた。今でも指導者の数が相当不足しているそうである。

 住めば都というが、日本人にとって今最も働き易い住み易い国は断然タイだと思う。しかし、タクシンの赤シャツ・デモがどう治まるかの問題もあるが、さらに気懸りな大きな問題がある。工業化・都市化が今のような猛烈なスピードで進むと、緑の豊かな自然とタイの人の生活と心が、どんな影響を受けどういうように変化していくか、心配でならない。今後も日本の企業は、タイへますます進出するのは間違いあるまい。タイの国の良さを損なうことなく、将来にわたり維持していくために何をしたらいいのか。今や日本人も真剣に考える責任があろう。飛行機の中でタイの蘭の花を見ながら、そんなことを考えて日本に帰ってきた。

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