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エッセイ・コラム 体験記・紀行文

言葉の力

野瀬 隆

 日本人はどうも物事をネガティブに悲観的に捉え過ぎるのではなかろうか。自虐的といってもよい。政治や経済そして社会のあらゆる問題に対して、マスコミの論調やそこに登場する評論家の言うことはワンパターンで、視点が偏っているように思える。将来起こりうるリスクを事前に察知して警鐘を鳴らすのは良いが、行き過ぎの観がある。

 曰く、100年に一度の大不況で日本は壊滅的な打撃を受ける、赤字国債の乱発で国が破綻する、新型インフルエンザの大流行で多くの死者がでる、地球の温暖化で日本は沈没する、など枚挙に暇が無い。最近では、民主党の政治は全く駄目だ、鳩山では国が滅びる、云々。

 言葉の力は恐ろしいもので、流布されている内に皆がその気持ちになって、現実がその方向に動き出してしまうのである。

 プラシーボ効果というのをご存知だろうか。信頼しているお医者さんから、「この薬は良く効くので、明日には治ってますよ」と言われて、薬でもないただの粉(偽薬)を患者が服用すると、患者の症状が実際に改善されることがある。少なくとも、何も言わずに与えられた集団と比較すると、明らかに結果に差があるというのだ。ことほど左様に、言葉の力は大きいのである。古くから「言霊」と言われる通り、言葉には魂が宿っている。

 会社で部下を持ったことがある人なら誰でも経験することだが、部下を指導・育成し、その能力を最大限に引き出すときに、欠点や足りないところを指摘して、そこを直させようとするよりも、優れたところを褒めて、自分は出来る人間だと暗示にかけて本人のやる気を引き出すほうが効果的なのだ。

 最近の日本は、確かに八方塞がりのように見える。しかし、悪いところにばかり眼を向けて批判するのではなく、良いところに光を当ててムードを盛り上げる方が、結果的に社会のためになる。少なくとも私はそう考えている。楽観的に「何とかなる」、と自分で思い込むのが我がモットーだ。ちなみに、プラシーボ(placebo)とは、ラテン語で「私は喜ばせるだろう」という意味だそうである。

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