芸術・芸能・音楽
写真はフィルムかデジタルか
今やカメラといえば、デジタル・カメラのことで、フィルム・カメラは過去のものになりつつある。しかし、プロ、アマチュアを問わず、写真を撮っている人の中には、フィルム・カメラに固執している人もおり、鑑賞する側にも写真を芸術と捉え、デジタルは邪道だと考えている人もまだ多い。
デジタル派に転向した私も、数年前までは重い中判のフィルム・カメラを担いで写真撮影をしていた。交換レンズと三脚を入れると、10キロ以上の重さになる。撮影地についたら先ず三脚を立ててカメラをセットし、フィルターをつけて対象を真剣に見つめる。構図が決まったところで、次に露出をどうするかだ。絞りやシャッター・スピードを定めて、おもむろにシャッターを切る。確かな手ごたえが指先から伝わってくる。と同時に、心地よいシャッター音が「バシャリ」と耳に届く。写真を撮る醍醐味を感じる瞬間である。勿論、撮った写真の出来栄えをその場で確認することなど出来ない。ラボでのフィルムの現像が完成するのももどかしく、ルーペで仕上がりを確認するのである。
こんな、フィルム・カメラの楽しみを捨てて、デジタルに乗り換えた理由は、第一にデジタルの性能が飛躍的に向上して、フィルム・カメラを越えたからである。展示会用に大きく引き伸ばしても、全く問題が無い。次に、フィルムの場合もフィルムの現像こそ専門の所に依頼するが、一旦それが出来上がったら、後の引き伸ばしやプリントは自宅でパソコンを使って出来る。フィルムの情報をスキャナーでデジタル・データとしてパソコンに取り込み、後はじっくりと調整しながら、最終プリントに仕上げるのである。この過程で、自分の感性を作品づくりに生かすことが出来る。
このような一連の作業をしている内に、どうせフィルムをスキャンしてデジタル・データにするのならば、最初からデジタル・データとして写真を撮ったほうが効率がよく、ロスも少ないのではないかと考えるようになった。その結果、フィルムからデジタルに宗旨変えをしたのである。感光度を高く設定しておけば、全体にピントを合わせるために絞りを絞っても、早いスピードでシャッターが切れる。重い三脚を苦労して持ち運ばなくても、ブレのないピントのシャープな写真が撮れるのである。歳をとって、体力がなくなってきた者が、特にツアーに参加して限られた時間の中で写真を撮る場合、これは実質的に重要な条件である。
確かに、じっくりとカメラを構えてシャッターを切るといった醍醐味が薄れることは否めない。事実、写真仲間には未だにフィルムにこだわっている人間も何人かいる。それも、山岳写真という最も過酷な場で実践している。4の5といわれる大判のカメラ機材を担いで山に登り、撮影地に着いてカメラを組み立てるのである。天候が悪ければ一枚も思い描いていたような写真が撮れないかもしれないの。まさに、これは趣味の世界としか言いようが無い。むしろプロ写真家は、依頼を受けて山の写真を撮るような場合、効率や仕上がりの確実性を考えて、デジカメを使うのが普通である。
趣味として今後も写真を続けるつもりだが、より多くの被写体に出会い、どんな条件でも作品が作れることを第一と考えている私は、デジタル・カメラを手放すことは無いだろう。