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エッセイ・コラム 体験記・紀行文

虎を守るか、国境を守るか

小寺 裕子

 これはインドの新聞の就活特集の見出しだ。野性の虎を守るNGOと国境警備隊という二つの対照的ともいえる職業を紹介している。

 まずNGOに勤めている夫婦が紹介されている。夫は、蜘蛛で博士号を取った。それが勤めて5年、密猟取り締まりでナショナルジオグラフィック誌も取り上げる程の実績を挙げている。身の危険もある仕事ではあるが、
「英雄気取りをするつもりはない。前は感情的になって失敗したこともある。仕事は地道にやるしかない。毎朝5時半には起きて森をパトロールするが、密猟者と思しき八十、九十人の住人からは目を離さないし、情報提供者という味方を作るのも大事」と答えている。

 夫人は私財を投じて密猟者が代替収入を得られるための教育訓練を行っている。カリスマ的魅力溢れる夫婦である。

 一方の国境警備隊司令官は、印パ戦争による幼い頃の度重なる停電と消灯から国境付近の住民のためになる仕事に就きたかったと述べている。軍隊とは違い、戦闘には関与しないが、情報収集など仕事はいくらでもある。また守るべき国境地域の住民が密輸に携わっている矛盾などについても触れている。こちらも朝食前の早朝パトロールから夜間の手入れなど厳しい勤務条件だ。

 ふんだんにカラー写真を使い、それぞれの仕事の魅力を伝える一方、現実主義のインドらしく大学の学部、昇進の道筋、向き不向き、給料も紹介している。

 ちなみに自然保護関係の新卒の初任給は民間でも林野庁でも二、三万円。国境警備隊は同じ大卒で無事一年の研修を終えると六万だ。トップになると官民とも大体十六万だ。

 日本のマスコミは相変わらず就職人気企業ランキングなどを掲載している。久しぶりに訪れたインドは素敵な笑顔の国であったが、新聞も、現実的で元気の出る爽快なものであった。

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