随想
理解し難い国イタリア
満70歳で完全に退職した1997年からでも7回延べ170-180日、今年も38日間主として地方都市を見て歩きました。現役時代も40年近く前のポルトガル勤務時代とその前後の数回のヨーロッパ出張時に何度かイタリアを訪れる機会がありましたが限られた大都市だけでした。
イタリアに魅せられたのは18年前から出版され始めた塩野七生の「ローマ人の物語」全15巻と須賀敦子の「ミラノの霧」ほか優れた数冊のエッセイを読んでからです。イタリアの歴史に関する本も何冊か読み、ある程度イタリアについて勉強したつもりですが、エルトリア時代・ギリシャの植民地時代・古代ローマから1860年の統一国家になるまでの3000年以上の複雑な歴史があり、多くの異民族の支配を受けた複雑なイタリアの歴史を頭に入れるのは大変です。
この理解し難いイタリアの文章は、旅行者としての私のイタリア感でもありますが、50年以上イタリアに住んで専門雑誌への投稿・イタリア語の著作もある中学時代の友人(ルネサンス建築の大家でいくつかの勲章を貰っている)のイタリア感でもあります。
この3年間毎年彼と会って話し合いましたが毎朝2-3の代表的な新聞を読み、テレビのニュースを見ている彼でも、「日本同様碌な政治家が出てこない、人々は勤勉ではなく労働時間は日本の2/3程度なのに、国民一人当たりのGDPはUS$35,000前後でEU先進国の中ではスペインに次いで低いが、それでも日本と同程度なのは不思議だ」と言っています。
上記のGDPは国連・世銀が発表する表向きの数字ですが、イタリア人は脱税がうまくアングラ経済が相当な比率を占めるので、実際の数字はこれより20%位は高いだろうとのことです。イタリアの物価はEU先進国の中では安く、不動産・食料品は日本の半値、交通費も安くタクシー代は日本の1/3以下です。
南北格差が大きくミラノ、トリノの北部の大都市は全国平均の1.5倍位ですから、ミラノ市民はかなり裕福で普通のサラリーマンがでも別荘といえるような立派なセカンドハウスを北部の湖水地方に持ち、30日程の夏休みと大半の週末はその別荘で過ごす優雅な生活をしています。
イタリア人にも少ないルネサンス建築の専門家の彼の顧客(ベルコリーニ現首相も顧客の一人)は貴重な建造物を所有する富豪たちで、預金金利だけで大企業のトップ位の収入のある金持ちも多く、これらの富豪たちは資本家だが経営にはタッチせず経営は他人に任せ、趣味の生活を楽しんでいるそうです。
それでも社会から尊敬されているのは年収の10%位を社会に寄付するからです。
金持ちが社会に多額の寄付をするのは日本と全く違った点です。
2010年8月31日 三宅 劭