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エッセイ・コラム 政治・経済・社会

プロメテウスの「先見」は?

平尾 富男

 プロメテウスによって、人類は火を使うことを覚えました。プロメテウスの意味は、ギリシャ語で「先見の明を持つ者」「熟慮する者」だそうです。その後長い時間を経て電気の有り難さを知った人類は、電気無しでは生きていくことが出来なくなりました。そして、遂には原子力による電気を手に入れて久しいのです。
 福島の原発事故については、欧米の新聞から逸早く懸念の報道が出ていました。EU諸国でも米国でも、原子力発電は各国民が思っている以上にライフラインの基盤になりつつあります。
 ドイツに住む友人によると、メルケル独首相が、「3ヶ月の間、古い原発の運転を一時停止。その内でも特に安全性を欠くと思われる原発は即刻廃止。この間、新しい原発においても安全性のチェックを徹底的に行う。原発継続の是非について根本的に見直しを行う」というパニック行動とも思える発表を行ったとのこと。環境にセンシティブなドイツが、原発に比較的消極的なことは知っていましたが、それでも既に30%もの電力を原発に頼っています。フランスは80%近い依存度だそうです。

 3月17日付の朝日新聞によると、原子力を成長産業と位置付けるロシアが「ベラルーシに同国と共同で原発を建設することで15日に合意した」と伝えています。福島原発の事故により「原発敬遠」の動きが出ることを牽制する狙いがあると見られているのだそうです。ロシアは既に中国やベトナムで原発を建設中で、合計30基の原発輸出を計画し、ロシア国内でも今後28基を作る予定になっています。
 イランでも原発の稼動を目前に控え、事故が相次いでいるとも伝えられています。同国大統領は「40年前の古い安全基準で作られた日本の原発とは違う!」と息巻いています。因みに、この原発もロシアが建設を担っています。
 アジア、なかんずく中国でも原発建設は盛んで、建設中の原子炉は27基、進行中の計画は50基を超えます。中国環境保護省は、「日本の原発事故によって原子力発電を発展させる中国の決意と計画が変わることはない」と断言しました。
 それでも、日本の事故は世界中に大きなショックの波を起こしつつあり、原発廃止の運動はこれから益々激化するものと思われます。
 このような運動の発展を最も恐れてるのは、先に記述したロシアだけでなく、米国のGM他の巨大原発産業なのです。日本の関連産業も同じです。原発を積極的に推進している世界の原発産業界は、今回の福島原発事故の成り行きを深刻にウォッチしています。従って、世界中が早い時期から福島原発の爆発事故の成り行きをウォッチしているわけです。今や、今回日本に突然起こった歴史的大災害は、世界中の注目を集めることになりました。
 一方で、日本がこの原発大災害からの復興に、如何に高い技術力を世界に示すことが出来るか―これはこれからの日本の一大試金石です。
 昨年の2月に上梓された『日本の原発技術が世界を変える』(祥伝社新書、豊田有恒)を今読み返すと色々と考えさせられます。

 日本の欧米大使館が本拠を関西に移すことを決めました。既に引越ししているところもあります。米国政府は、日本在住の米国公人、私人の本国引き上げの為のflightを用意したと発表しています。
 私の親しい仲間の一人から九州福岡の親戚の家に、別の仲間からも福井県の敦賀市のホテルに、夫々夫婦で疎開したと連絡がありました。(敦賀にも原発がありますが....)

 経済優先で邁進してきたこれまでの生き方を、根本から変えねばならない時が来ているのではないでしょうか。人類の破滅は、自然によって起こされる以前に、人類自らが引き起こすと言った昔の賢人の言葉が思い出されます。

 プロメテウスの「先見」は、ここまで思い至らなかったのでしょうか? 少し悲観的になりましたが、人間の英知を信じて余生を全うしたいと思います。

 最後に、地震、そして津波、さらには原発事故で被災した方々には、心からのお見舞いを申し上げると同時に、亡くなられた方々には深い哀悼の意を表したいと思います。被災者の皆さんには、これから辛い復興の努力の長い時間が待っている事に思いを致すと、益々心が痛みます。

(2011.03.18)

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