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エッセイ・コラム 体験記・紀行文

地震の思い出

大庭 定男

 私が育った遠州の天竜川河口は古来地震が多い所であったらしい。私が子供のころ、私の家は杉皮葺きの二階家であった。瓦屋根にすると地震で危ないという祖父の意向からであったが、体面を重んずる父は瓦葺きにしてしまった。報いは十数年後に訪れた。1944年末の東海大地震で家は傾いてしまった。戦中の報道管制のため、地震のことは報道されず、ジャワで勤務中の私は地震そのものも、この為に故郷の家が被害を受けた事も全く知らず、1947年5月、復員した際、傾いて、つっかい棒で支えられている我が家を見て驚いた。

 さらに、その二十数年前、関東大震災の時には私は満一歳、余震がたびたびあり、そのたびごとに母は私を抱いて裏の藪に避難すると、私がキャッキャッと大喜びであったと母がよく話してくれた。

 1980年代、ロンドン在勤中、パッケージ・ツアーでイタリアに旅行した。中部イタリアの町にとまった深夜、かなりの強さの地震があった。翌日の朝食はこの話で持ち切りで、「日本では地震が多いと聞くが、昨晩の地震はどう感じたか」と質問された。地震を経験したことのない英人はよほど怖かったのだろう。私は「東京では、昨晩くらいの地震は毎日曜日にある」と真顔で答えると英人たちは眼を丸くして驚いていた。もちろんこれは嘘であり、そうでなければ誇張であるが、あまり物事に驚かない(あるいは驚いたような顔をしない)英人を驚かせることが出来て、内心「ざま見ろ」と叫んだ(終)

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