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エッセイ・コラム 政治・経済・社会

Once Again「勿体無い」

西川 武彦

 とんでもない大震災と想定外の津波に端を発して福島第一原電が止まり、火力発電も大打撃を受けた。築40年余りの我が家は大揺れに辛うじて耐えたが、二階にある筆者の小さな書斎は震度3を超えると倒壊しそうに激しく揺れる。ちょっとした風でも揺れるから、先日など余震と強風で一日中、荒天のなかを飛ぶ航空機に乗っている怖さだった。我が家の食料は、生協の一週間単位での宅配に依存している。23日の昼前に届いた配給には、注文した野菜類が見当たらなかった。品不足という。影響の一つだ。街の暗さといい、終戦後を思い起さないでもない。

 被災地から遠い東京だが、震災に伴う電力への影響もある。3月下旬の現時点で、4100万KWが必要なところ、供給能力は25%ほど足りないそうだ。猛暑の8月には需要は6000万KMに跳ね上がる。今日の朝刊に都の広報号外が挟まっていた。電力不足の現況を分かり易く伝えた上で、省エネ・節電への都庁率先の行動を掲げ、都民と企業への協力をお願いしている。家庭での、そして事務所での、節電対策メニューが列挙されている。電力を食うエアコンや冷蔵庫の設定温度を明示するほか、照明、電気製品、OA機器、ネオンサインや看板の消灯、果ては便座ヒーターの停止等々、細かく具体的でよろしい。これらが守られるとよいのだが、新聞を取らない・読まない都民も半数以上はいるだろうし、老若を問わず、モバイルやパソコンで自分の好むトピックを漁るだけの層が圧倒的に多いから、この広報の効力はいかばかりであろうか。一時姿を消したくだらないお笑い番組が復活したテレビも当てになるまい。公の広報、市民への徹底に限界がある以上、節電については、お上が電力の規制に動かねばなるまい。まずは具体的に以下の五項目を提案したい。

①計画停電の一年間継続:
 これが当たり前という節電の教育実習になろう
②道路沿いの自動販売機の撤廃:
 コンビニがどこにもある。町づくり上、景観や環境の改善にもなる
③コンビニの稼働時間の制限:
 朝7時から夜11時までに制限する(セブン・イレブンに戻す)。
 治安にも役立つだろう
④高速道路の夜間照明の半減:
 今の半分あれば充分だろう
⑤公共施設・交通機関の冷暖房の温度制限:
 夏26℃、冬20℃を限度とする。民間施設の指標にもしたい

 ところで、津波で積み木細工のように壊された被災地の惨状をテレビ報道で観ながら、原爆で廃墟になった広島を思い出した。筆者は、平和記念公園などがなく、そこらじゅうに傷みが残っていた昭和三十年代の広島を知っている。それから半世紀余り過ぎた頃、広島を何度か訪れる機会に恵まれた。そして復興振りに驚いた。単に古い町が蘇ったのではない。戦後、日本中に横並び的に造られた、色形がチグハグな可笑しな街並みもなかった。大きくしっかりデザインされた、現代的で、世界に誇れるレベルの町に生まれ変わっていたのだ。昔の広島も少し加えて・・・。道路などのインフラ、建物にも規制があるのだろう。なぜか大風呂敷で有名な後藤新平さんを思い出したものだ。
 未だ混乱と苦悩の最中にある被災地・被災者の皆さんには不謹慎に聞こえるかもしれないが、災い転じて福となす。風呂敷を拡げて、大きなスケールで地域の復興を設計すべきであろう。これから新設されるであろう仮称『復興庁』に期待するところ大であり、心からそれを念じてやまない。

 最後にもう一つ。一流国として、あらゆるものが手に入り、物が溢れる飽和飽食の日本だ。少子高齢化などに伴う社会保障等に知恵を絞って対処する必要はあるものの、BRICsや主なアジア諸国が途上国を卒業する今日、高度成長はもはや望むべくもない。今回の大災害・事故は、「もったいない」を基調にして、今一度、新しい国のかたちを求めよ、という天罰ならぬ天啓と受け取り、全国民が力を合せて道を切り拓こうではありませんか。
 今書き終えてふと目を上げると、右壁に掛かった近江商人の家訓が目に入った。「質素、倹約、忍耐と用心」。あれー、またまた余震だ!持ち出すバッグの中身の点検に取り掛からねば・・・。

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