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エッセイ・コラム 政治・経済・社会

「アラブの春」の場外戦

西川 武彦

 6月15日発行のニューズウイーク日本語版に『酔っ払いが攻めて来る?』の見出しで興味深い記事が載っていた。今から10年余り後の2022年のW杯サッカーは、中東の首長国カタールで開催される。アラビア半島中部東岸で、ペルシャ湾に突き出た小さな半島にある。面積1万キロ㎡余りの小国で、人口は60万程度。日本では、1993年、W杯出場をかけたアジア地区最終予選の決勝で、日本代表がロスタイムが終わる寸前に点を取られてイラク代表に破れた「ドーハの悲劇」で知られる。天然ガス資源に恵まれたお金持ちだ。狭い国に9つのスタジアムを造るという。アプローチの道路、橋梁等々を含め、なんと650億ドルを投入するらしい。
 見出しの英語訳は、“Can Qatar Handle a Drunken Invasion? ”。W杯ともなれば、数週間に渡って、選手を初め、世界中から男女の観客が参集する。スタジアムは埋まり、街は賑やかに興奮するのが常だ。カタールは暑いから、観客たちは、色彩豊かな衣装、肌も露わなファッションで行き交うだろう。会場の内外で酔っ払って騒ぐ。

 2010年、チュニジアの「ジャスミン革命」に発した「アラブの春」は、エジプトのムバラク政権を倒し、リビアを揺るがし、イエメン、バーレン、シリア…、中東から北アフリカ全域に不気味に拡がり、止まるところを知らない勢いだ。長期独裁政権を倒し、富の均等化を目標に民主化を進める建て前をG8も夫々の思惑で後押しするが、社会制度的には、ドバイなどの一部を除き、禁酒・禁煙・(女性が)肌を見せない等々、イスラム教戒律でのご法度・禁令は厳しいままだ。これらはこれからどうなるのだろう?カタールで2022年にW杯が開かれる頃にはどうなっている? W杯はいかに運営するのだろうか?興味深々というわけだ。

 そんなことを案じていたら、今度は6月19日付け東京新聞で、特報部が『ユニフォームで場外戦』と題して報じていた。女子サッカーのロンドン五輪アジア予選で、ヨルダン・イラン戦が6月3日アンマンで予定されていたが、イラン代表チームが頭全体を覆うユニフォームを着たことを理由に出場禁止処分となり、ヨルダンが不戦勝となったという。イスラムの戒律が特に厳しいイランでは、女性は公共の場で肌を出すのを禁じられ、頭には「ヘジャブ」という布を被る。サッカーの競技規則では「自分自身または他の競技者に危険な用具」を身に着けてはならない、とある。「ヘジャブ」に相手の手などが引き掛かった場合、首を絞められた状態になりうるとして、イランは出場禁止になったそうだ。
 あれやこれやで、「アラブの春」は容易ではなさそうだ。

2011年6月22日

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