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エッセイ・コラム 創作作品

ユリ

西田 昭良

 私は、しがない一輪のユリ。
 毎年、夏めく頃になりますと、私の兄弟姉妹や多くの仲間たちは、野山は勿論、ご家庭の庭先や街角の花屋さんなどにも、一斉に艶やかな花を咲かせます。
 少し前のことになりますが、私たちのことについて、或る新聞のコラムに気になる記事が載りました。
 それによりますと、私たちユリの仲間は、祖先から受け継がれている、むせるような芳香ゆえに、飲食の席や冠婚葬祭には不向きとされている。それでは、ということで、或る花卉研究所は、その強い香りを抑える技術を編み出した。なんでも、匂いの生成を妨げる薬剤を水に溶かし、蕾の段階で切り花にそれを吸わせる。こうして咲かせば、通常の匂いは八分の一に軽減され、コストも安く十分に商売になる。こうして現在市販されてユリは、すべて香の無いものばかりだ、と言うのです。
 冗談じゃありません。そんなことをされてまで、私たちは、人間の世界の酒席や冠婚葬祭に使ってもらわなくてもよいのです。宇宙創造の神が与えてくれた私たちの誇り高き、世にも類なき香りが嫌ならば、他の花を使って下さればいい。
 新聞記事は更に、「好かれる花」を創り出した研究所の技と執念に感服する、と絶賛しておりました。何と身勝手な評価でしょう。
 売らんがためには何でもする、という販売第一主義の精神構造が、羊頭狗肉を遥かに超え、遺伝子を組み換えたり、更には、地球環境を破壊したりしていることに、一刻も早く気付かなければ、日本の、いや人類の将来には希望を持てません。
 人間様、どうか私たちに、麻薬のような薬剤を吸わせないで下さい。私たちの〝あるがまま〟の姿は、必ずや日本を、世界を、真の美しさで飾ることでしょう。

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