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エッセイ・コラム 体験記・紀行文

クルーズ

金京 法一

 日本船籍では最大の客船飛鳥Ⅱでの船旅に出かけた。横浜で乗船、北海道に向かい、函館、小樽、利尻島に寄港して、網走で下船する五泊六日のクルーズである。

 東京湾を出るあたりで、台風6号の影響か若干の揺れを感じたが、それ以外は平穏な船旅であった。寄港地ではオプショナル・ツアーがあり、函館ではトラピチヌス修道院や五稜郭を、小樽では天狗山や運河地区を訪れ、利尻島を一周した。天候にも恵まれ、かつては貿易港として繁栄を極めた小樽の運河地区のロマンティックな雰囲気や、日本最北端の利尻富士の秀麗な姿は印象深いものであった。

 クルーズの良さは何といってもその落ち着いた大人の雰囲気にある。きめ細かいサービスや一流レストランの食事が味わえる。身体的にも全く楽である。スーツケースは自宅と船室の間を宅配便が運んでくれる。劇場、映画館、ダンスホール、プールやプロムナードデッキなど娯楽やスポーツ設備も万全である。

 航海中にフォーマル・ナイトがあり、男性はタキシードまたはダークスーツ、女性はローブデコルテないしはカクテルドレスという規定があった。二十年前に着用し、まさか再び着ることがあるとは思わなかったタキシードを引っ張り出し、家内も忘れていたロングドレスを引っ張り出して何とか間に合わせた。船長主催のウェルカムパーティー、フルコースディナー、ステージショーと何とか日程をこなした。やれやれ。

 船客はリタイアーした夫婦ずれが大半を占めるが、男女を問わず一人旅も結構いるようである。そして意外なのは腰が曲がったり、杖を突いたり、車椅子に頼る高齢者が多いことである。こういう方たちも寄港地ではバスに乗って観光に参加している。外見の衰えと精神的な気構えとは違うのであろう。「船は動く老人ホーム」などという嫌味も聞こえてきそうであるが、やるべきことはやり遂げ、今ゆとりと平安の老後を迎えて、巨大クルーズ船という憩いの場を人々は見出しているのであろう。

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