作品の閲覧

エッセイ・コラム 日常生活雑感

孫の世界地図 その2

大平 忠

 毎日、孫の部屋の世界地図を眺めている。昨夜は、この地図を見ながら、EU諸国のお荷物である財政破綻を来たしたギリシャとポルトガルのことに思いを馳せた。
 ギリシャといえば、ヨーロッパ文明誕生の地であり、古くは、地中海に覇を唱えた。海上交易を一手に握り、植民都市を地中海沿岸の各地に築いた。最近でも船舶王オナシスの名は、海運業で世界にその名を知られていた。  ポルトガルも、16世紀には、インドからマレー半島、北上して日本、さらにアフリカ沿岸から南米ブラジルまで、カソリックの布教と併せた強大な商船隊の力を以て、 交易から植民地獲得へと版図を広げた。スペインと共に大航海時代の雄であった。
 しかし、かつて輝 かしい時代を持っていたにしても、世界地図を見ると、二国とも極めて小さい。いまや、経済も国際化の時代になると小国は世界が波立つとたちまち波に呑みこまれる。小国には世界中から輸入品が流れこみ、よほど強みのある産業を持たない限り国際収支は赤字になる運命だ。ギリシャは、観光業、海運業があるからまだましだが、ポルトガルは、ワインと栓のコルクぐらいしか知らない。移民をするといっても、かつての植民地ブラジルは受け入れてくれるだろうか。

 地図の東の果て、日本も実に小さい島である。両国と異なる点は、人口がはるかに多いことぐらいか。資源も少なく農地もわずかである。1億以上の人間がこの小さい島でよくも生きてこられたものだ。江戸時代の自給自足で養えた人口は3000万と少しであった。戦後いままでの数十年は製造業が頑張って生きてきた。労働人口の多いことも強みであった。それもいまや高齢化の重荷を背負う。製造業も中国を筆頭に新興国が猛然と台頭してきた。時代の必然である。そこへ留まるところを知らない円高の流れが続く。
 とるべき方向は至極単純に見える。こんな小さな国にひしめいていたら食っていけそうもない。仕事も、金も、人も、外へ出なければ、雪隠詰めだ。製造業の海外移転は当然のこと。金も海外へ早くもっと振り向けるべきである。円高は絶好のチャンスではないか。強欲金融資本に懲りたとしても、羹に懲りて膾を吹いてはいけない。人については、世界で通用する人材育成のスピードを二倍三倍加速することが鍵である。若者は、内向きもへちまもない、国内では飯を食っていけないことを悟れといいたい。じいさん、ばあさんの遺産を当てにしていたら、ギリシャ、ポルトガルの二の舞いになるのは速い。19世紀から20世紀前半にかけて世界に冠たる国だったイギリスも、落ちぶれるのは速かった。サッチャーが登場しなければどうなっていたことか。

 7才の孫に、いつの日かこの地図を見て、「日本という国も 、なんでこうなったのだろう」と言わせたくない。感動した「なでしこJapan」も、主力選手が海外でもまれて強くなった。2011年の伝説のチームで終わることなく、将来にわたり存在し続けていって欲しいと心から思う。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧