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エッセイ・コラム

『WikiLeaksアサンジの戦争』

田谷 英浩

 ウィキリークスのジュリアン・アサンジュに早くから接触し、外交公電のスクープを連発した英名門新聞社ガーデイアン紙による話題のウイキリークス(WL)本。350頁ハードカバーのこの本は、難解なコンピュータ用語も多く、睡魔との闘いもあり、読み通すのは容易ではなかった。しかし読み終わって、挑戦してよかった、近年最もインパクトを受けた書物として満足している。

 帯にある“アメリカ政府が本気で怯える内部告発サイト・衝撃の全貌”は掛け値なしに本当だ。売らんがための惹句ではない。 それが証拠に先週の朝日新聞は「8月24日、米連邦大陪審は愛国者法に基づきWLのサーバーを管理する米カリフォルニア州の企業に、WLやジュリアン・アサンジュ代表らの情報提出を求め、同社はこれに応じた」と報じ、異常な警戒ぶりを伝えている。なにがそんなにアメリカを怯えさせるのか。
 世界中にある米国の274の在外公館から国務省に報告される外交公電は、現地の外交官が接触する各国の政治家や官僚らのナマの実態と発言を伝える内部文書である。WLはそんな公電を25万件余り入手して昨年十一月から順次公開をはじめた。
 イラクで米軍ヘリが民間人を射殺する様子を撮影した内部ビデオの暴露ですっかり有名になった。ロシアのメドベージェフ大統領を「精彩に欠け優柔不断」と断じ、イタリアのベルルスコーニ首相を「無能でからっぽ」などと評価していたことが、白日の下に曝されたのだ。
 その一方で公電の公開を待ち望んでいた人々がいる。言論の自由のない国々の国民だ。チュニジアでは体制の行き詰まりを報告した大使の公電が若者たちの諦めを希望に変え、ジャスミン革命へと繋げた。
 アサンジュ自身はオーストラリア生まれのコンピュータおたくのような39歳、今は別件逮捕のような強姦容疑で英国にいるらしいが、アメリカでは著名人でさえ“アサンジュを暗殺して罪を償わせろ”と叫んでいるそうだ。
 報道の自由は当然であるが、外交情報の一方的公開は国益やプライバシーの侵害にならないのか。内部告発サイトと伝統メデイアとの共闘はどのようにして出来あがったのか。サスペンス小説顔負けの面白さの中に、世界的で今日的な問題が提起されている。幸か不幸か、日本の話題はない。

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