恋心を「なでしこ」に
日本の女子サッカー「なでしこジャパン」の活躍で、撫子が日本の女性を象徴する花として一躍世界に知られることとなった。
なでしこは、日本人が愛でる花として、秋の七草のひとつにも数えられている。これは、秋の野の花七種類を詠んだ、山上憶良の歌からきているといわれている。
萩の花 尾花葛花 なでしこの花 をみなえしまた 藤袴朝顔の花
尾花はすすき、朝顔は現代でいう桔梗のことである。
万葉集に詠まれている花はおよそ五十種類あり、ある人が調べてみたら、多い順に次のようになるという。
1.萩 2.梅 3.橘 4.桜 5.藤 6.撫子 7.卯の花
なでしこを詠んだ歌は三十首ほどあるが、その中にこんな歌がある。
我がやどに 蒔きしなでしこ いつしかも 花に咲きなむ なそへつつ見む
「なそへ」は、「なぞらえて」の意。従って、歌の大意は「わが家の庭に蒔いたなでしこは、いつになったら花が咲くのだろうか、咲いたらあなたをその花になぞらえて見よう」という程のことか。
この相聞歌は、かの大友家持の詠んだものであるが、その時の齢が何と15,6歳だというのだ。歌を贈った相手は、3歳下の従妹、大伴坂上大嬢で、まだ12、3歳の少女である。今日の感覚から考えると、いかにもおませのように思えるが、当時の定めによれば、結婚の許される年齢は、男が15歳、女が13歳以上であったというから、その時代としては、あたりまえの事だったようだ。
ちなみに万葉集のこの歌の「なでしこ」は、瞿麦(くばく)という万葉仮名で表記されている。中国にあった唐なでしこである。他の歌では、石竹と表記されているものもある。なでしこの花言葉は、純粋な愛、無邪気、可憐などである。
大伴家持は一旦無名の女性と結婚したが、その女性が亡くなったすぐ後に、大嬢を正室にむかえている。初恋の人と結ばれたのである。このとき家持22歳、大嬢は19歳であった。