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エッセイ・コラム

貨幣の津波は妄想か

富岡 喜久雄

 最近日本の財政問題が新聞、マスコミを賑わせている。ギリシャより酷い国債残高比率は危険サインだと、日本の国債発行残高を喧伝して消費税は引き上げるべきと主張するし、他方日本は国債保有者がほとんど日本国民だから外貨建での返済を迫られないから、いざとなれば貨幣増発して返済すればよいのでデフォルトはありえないと言う。与党の中でも意見が割れて、片や公務員給与削減、議員歳費引き下げ等身を切る努力が足りないから、その後で考えるべき。 いや、社会福祉が持たないとか、誠に百家争鳴で分かりにくい。何故か? 一方に良かれとする報道ばかりが一人歩きするからである。
 それにしても議論の前提としての統計数字は判りにくい。出所は官庁統計で、それが企業会計と異なる単式簿記で、B/SやP/L、付属明細書がないから単一事象については明らかなのだが、相互の関連が分かり難いのである。わざと分かり難くさせているのかと思えてしまう。

 国債残高を日本の資本金、または借入金と考えたらどうかという意見もある。資本金なら自己資本だから返済の必要はないし、借入金なら担保すべき資産があれば問題ないと。事の当否はともかく、対応する借方の資産勘定はなんだろう。国有地、国有建物、投融資された国有株式、JRや銀行支援した際の投入額、郵政民営化の際の支援金か。それらの金額は如何ほどで、さらに評価は如何に。
 時価会計が一般化したのに購入当時の簿価のままではないだろうか。特定事業の特別勘定として何処かに表記されているとしても良く見えない。また埋蔵金とは何を指すか、各種特別勘定に含まれている余剰金だろうか。 為替管理に絡む外貨勘定の評価損益は現在どうなっているのか。この円高で莫大な評価損が出ては居ないか等々、いろいろと疑問が湧く。 年金機構、独立行政法人としての国立大学や各種の天下り団体等はどうか。これらは特定事業遂行のための勘定なのか。とすれば、いわば子会社のようなものだから、これら事業の経営が健全に行われ且経営者が経営責任をとれるなら、天下り自体は問題でもないだろうし、多少の贅沢は経営努力の報酬として許されるだろう。
 問題は自ら経営努力をせず赤字を垂れ流し、親会社である一般会計からの援助で生き延びて、一方親会社たる一般会計も同様に収支均衡を税徴収と国債発行という安易な方法で解決しようとするのが問題なのである。

 財政危機だけが声高に叫ばれ、それを説明するに足る会計の透明性がないといえないだろうか。
 この疑問は単に筆者の不勉のせいだけとも思えないのだが。すでに一部の自治体では実行済みといわれる日本国のバランス・シートを新聞紙上で見たことがない。ネットを検索するといくつか見つかるが信憑性と内容が物足りない。会計検査院の業務範囲なのかは不知だが、著名な多くの会計事務所もあるのだからやる気ならできるはずである。何故だろうか。
 そして、ついに日銀は1%とは言え、インフレ目標を打ち出した。これで1%の国債利金は消えてしまう。いよいよインフレによる貨幣価値の切り下げによる借金の目減りを目指しているとしか思えない。こうした例は古今東西の歴史上数多い。戦後の新円切り替えや、戦中乏しい家計から支出された戦時国債や息子にかけた徴兵保険が戦後二束三文になっても、国は国有財産で補償したと聞いたことがない。
 貨幣の津波がひたひたと押し寄せてくるような妄想に悩まされそうだ。

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