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エッセイ・コラム

金還日食

金京 法一

 平安時代以来と言われた金環日食を見ることができた。やや異様な雰囲気であった。金環に縁取られた「黒い太陽」もさることながら、地上には夕暮れ時の薄暮が充ちあふれ、木漏れ日が地面に金環模様を広げていた。ただ薄暗いのではなく、薄黒い緑青色が充ちているといった感じであった。

 コロンブスがアメリカ大陸で原住民を相手に、服従せねば太陽をかき消すと脅し、日食を巧みに利用した話は有名である。日食の異様な雰囲気は現代でも変わらない。

 小学生のころ日食を見た記憶がある。皆既であったか金環であったかは忘れたが、父親に連れられえて、住んでいた町の郊外の小山に登り、持参したガラスに蝋燭の煤をつけた手製の曇りガラスを使って見た。今では禁止されている方法かもしれない。やはり木漏れ日で日食が地上一面に模様を広げていた。夕暮れのような雰囲気も同じであった。

 「赤い月」と言われる月食はサロメなど戯曲によく登場するが、日食はあまり登場しない。「黒い太陽」と言われる皆既日食以外はなかなか肉眼では見え辛いからかもしれない。

 生きている間に金環日食を再び見る機会はないであろう。僅かな時間ではあったが狂気に似たような雰囲気を味わったような気がする。ヨーロッパの経済危機はなかなか解消の様子もなく、首都圏地震の可能性が報道され、政局の混乱の予兆があるなど、不安が絶えない。金環日食が不幸な出来事の予兆でないことを祈るのみである。

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