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エッセイ・コラム

国会事故調・黒川清委員長の言葉 その1

大平 忠

 7月5日、国会原発事故調査委員会の報告書が公開された。読み終えて、日本の良心ここにありとの感慨に打たれた。国政調査権を背景にした調査だけあって、隠ぺいの余地は殆んど無かったのではないだろうか。聞きとりの実況を同時通訳で世界に発信し、報告書も英語版を同時に出したことは高く評価できる。
 特に感服したのは、黒川委員長の巻頭の言葉、「はじめに」であった。国を思う憂いが、歴史の洞察を伴って、にじみ出ている。書き出だしから、「……日本の問題点が露呈した……」と、強い表現に身が引き締まる。
 事故の原因についての記述では、原子力事業の当事者と監督すべき諸機関について、厳しく断罪している。
「……組織の利益を守ることは、重要な使命……この使命は国民の命を守ることよりも優先され、世界の安全に対する動向を知りながらも、それらに目を向けず、安全対策は先送りされた」「……この事故が『人災』であることは明らかで、歴代及び当時の政府、規制当局、そして事業者である東京電力による、人々の命と社会を守るという責任感の欠如があった」。
 人間としてのモラルを失った当事者と監督者に対する怒りの言葉と取れる。
 委員長は、最後に、福島が生んだ偉人朝河貫一を引用して締める。
「日露戦争に勝利した後の日本国家のありように警鐘を鳴らす書『日本の禍機』を著し、日露戦争以後に「変われなかった」日本の進んでいくであろう道を、正確に予測していた。「変われなかった」ことで、起きてしまったこの大事故に、日本は今後どう対応し、どう変わっていくのか、……この国の信頼を立て直す機会は今しかない。……この報告書が変わり始める第一歩となることを期待している」。
 今や、平成の禍機である。この黒川委員長の言葉は、単に原発関係者とその組織に留まらず、我々自身と現行社会すべての「ありよう」に投げかけられた警鐘と受けとめたい。国民一人一人が噛みしめるべき言葉と感じ入った。

(平成24年7月15日)

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