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エッセイ・コラム

孫の盆

濱田 優(ゆたか)

 四人いる孫は、珍しいことに揃って8月生まれ。それで、お盆はお正月とともに彼らの書き入れ時になり、こちらの散財時になる。
 孫たちが幼児のうちは誕生祝もお年玉も母親である娘の差配に入るが、小学生ともなればお金に関心を持ちはじめ、自分がもらったお金は自分のものという意識が強くなる。娘が手元不用意の折は孫に借金を頼むこともあるそうな。

 孫たちが来る日は、二人の娘の夫たちのお盆休みの都合で決まる。
 娘たちはうちに来ると子どもを私たちに預け、今は昔の娘時代の気分に戻って三軒茶屋の街でショッピングを楽しむ。住まいは川越と大宮だが、町外れで気の利いた店はないという。買ったものを見ると何のことはない、子どもと夫の衣服の特売品がほとんど。娘もすっかり主婦の色に染まっている。

 車で家族を連れてくる夫は、昔話題になったアッシー君だ。仕事で忙しい中、貴重な休日を家族サービスに駆り出されてご苦労なことと同情する。そっとしておいてあげるのが一番のサービスだろう。うちでは居間でテレビを観たり、うたた寝をしたりして専ら休んでもらう。
 以前は、私も企業OBらしいところを見せようと、義理の息子を相手に会社の業況を聞いたこともある。ある時、私の問いに電子部品メーカーに勤める彼は、
「いや、パッとしません。良いのはシャサイだけですよ」と答えた。
 社債? 資金調達の話か。訝しげな私の顔を見て、彼が「最近、車にもうちの部品が数多く使われるようになって……」と続けてくれたので、シャサイは「車載」と分かった。卒サラが遠くなるに従い、彼らの仕事についての難しい話題にはあまり触れなくなった。

 さて、主役の孫たちである。長女の子は小4の娘一人でもう楽になったが、次女の子は小4の娘の下にまだ幼稚園児の双子の男の子がいて目が離せない。なにせ二人の男児は好奇心が旺盛で、活発に動き回る。フラットな自分のマンションにはない、二階への階段を上ったり下りたり、掘り炬燵に潜り込んでキャッキャッいったりして大騒ぎだ。去年来た時は、まさか炬燵になんか入ると思わないので掃除を怠ったら、孫たちの服がホコリまみれになり、買い物から帰った娘に叱られた。

 現代っ子の孫たちがうちに来ての最大の楽しみはパソコンゲーム。自分の家では母親に厳しく時間制限されるので、うちで好きなだけゲームに興じられるのが嬉しくてたまらない。
 年上の孫娘たちは、幼児期にWeb上の「しまじろう」や「メルちゃん」と遊びはじめ、niftyのゲームランドにある数知れないゲームに挑戦して腕を上げた。
 私もお付き合いで相手になり、勝ち過ぎてはいけないと適当にやっていたらとんでもない、反射神経がものをいうゲームでは幼稚園児の孫に全く勝てないのだ。
 例えば、「イルカに乗った少年」は、ジャンプをして次々に現れる輪を潜ったり、風船を跳ね飛ばしたりするゲームだが、反射神経の鈍い私はジャンプのタイミングが合わず、孫の点数の半分も取れない。悔しいので、孫が帰ってから練習したけれど、努力しても思うように得点が伸びないので諦めた。
 このごろは、孫娘たちはニンテンドーDSに夢中で、パソコンゲームには以前ほど興味を示さなくなった。今は、弟たちの指南役でパソコンゲームの手ほどきをしてくれるので助かる。ただ双子の兄弟はライバル意識が強く、ゲームに負けた方が悔しがりすぐいじけるので、私のお守り役はまだ解かれない。
 孫たちは、最後に仏壇の前で神妙に手を合わせて拝んでから帰る。

 私が孫と同じ年頃というと、太平洋戦争の末期から敗戦直後の混乱期であった。生きるのに必死という時代で親たちは辛酸を舐めた。けれど、子どもの私たちは、腹ペコを抱えながらも、遊ぶどころでない、というわけではなかった。子どもは遊びが仕事だ。空襲で焦土と化した焼野原を走り回った。場所があって仲間がいれば、気の利いたオモチャなぞなくても、かくれんぼ、缶けり、釘さし、三角ベースなど、その辺にあるものを使い工夫して遊ぶ。そこでガキ大将からオミソまでさまざまな仲間がいることを知り、子どもなりの処世術も覚えた。そのころの幼馴染の顔を思い浮かべると、今だに懐かしい。

 パソコンやゲーム機で遊び、塾や教室通いに明け暮れしている現代の子どもたち。一体彼らはどんな大人になるのだろう。私は根が楽天家で、人というより生き物の適応力は大したものだと買っており、彼らも新しい時代に応変してしたたかに生きていくと信じている。
 ただ、近ごろ「絆」という言葉が過剰に溢れ出していることがいささか気になる。私の経験則からいえば、何かスローガンめいた言葉が言いはやされるのは、実際はそれが極度に欠乏している証だ。昔は自然に身のまわりに張り巡らせられていた絆が、今は意図的に補修・強化しなければならぬほど劣化している。
 お盆時、まずの自分の家族・祖孫との縁の糸を大事に手繰ってみよう。

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