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エッセイ・コラム

ルームシェアと異文化雑感

西川 武彦

 家庭の事情で、十年余り前から、二階建ての我が家の一階を外国人に賃貸している。不動産屋によると、築40年以上で耐震性も劣る和洋折衷の「古民家」では、日本人のテナントを見つけるのは容易でないという。
 最初は、筆者のテニス仲間のギリシャ系フランス人とその友人がシェアして入った。両者の女性友達が入れ替わり出入りする怪しい年月が続いたが、パリに家族がいるという大学でフランス語を教えていた方が、なぜか南アフリカの女性と出来上がり、子供が生れるタイミングで転出した。
 それに前後して、今一方のフランス人は、日本人女性と結婚。筆者夫妻は彼の「親族」として神式の座に参列した。彼はITなどの起業家だったが、一区切りついたのか、二年前から同じ町(シモキタ)で洒落たフランス料理店を開店。店の三階部分をリフォームして、そこに転居した。

 そのあとに我が家に入ったのは、ヘッジファンド屋という三十代半ばのオランダ人男性と、イラストレーターの卵の若いフランス人女性である。
 前者は罰一で、別れた日本人女性との間に幼い子供が三人もいる。それが別れた条件らしく、可愛いハーフのチビたちは週二日は我が家にやってきてバタバタと賑やかである。
 後者は、小柄で魅力的な美女。容姿は完全にコーケシアンだが、ベトナム人の血が八分の一混じっている。フランス人の祖父が、第二次大戦で日本が敗れたあとベトナムに戻った仏軍の高官だったという。ベトナム美女を娶り、フランスが1950年代にデイビエンフーで破れる頃までハノイに滞在したらしい。

 フランス料理店はコーケシアンの社交場にもなっていて、現在の二人のテナントは、オーナーである旧テナントが紹介してくれたものだ。
 新しいテナントたちには男女の関係はなく、単なるシェア仲間。トイレ・風呂・キチン・玄関などは共用である。

 オランダ人とは二年契約で、彼はそのあとイタリアに渡るという。
 フランス人はワーキング・ホリデイ・ヴィザなので一年契約。23歳の彼女にはイラストの仕事を斡旋するなど、鼻の下が長いオーナーも手伝っているが、成長が止まったジャパンではままならないようだ。フランス料理店を手伝ったり、フランス語を教えたりして青春を満喫している。ヴィザが切れる来春、まずはフランスに一時帰国したあと、今度は韓国にロングステイするという。下調べで十日ほどソウルに旅して戻ってきたので、ワインを飲みながら、諸事情を聴いたところ、どうやら日本に比べ、韓国の方がなにかと活性化していて、イラストもチャンスがありそう、英語を解する人口が日本よりずっと多くて過ごし易い、でもやはり自分としては日本の文化、人たち、自然など全て大好きなので、いずれまた戻ってきたい…、という。

 筆者は、日本人が海外でロングステイする旅を啓蒙する某財団の広報事業を、現役時代からヘルプしている。季刊誌の編集制作が主な「仕事」だ。
 で、逆に日本でロングステイを楽しむ彼女の生き方、過ごし方を同誌で紹介すべく、昨日編集長にインタビューしてもらった。
 それを補佐しながら、世界を股に、逞しく楽しく横並びでなくい人生を歩む彼らと、今時の覇気に欠けた日本人を対比しながら、感じたことを綴った次第です。

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