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エッセイ・コラム

大久保利通にみる「官と民との関係」

大平 忠

 明治維新新政府にあって、行政組織の構築と官僚の人材育成に努めたのは、大久保利通であった。大久保は、その出身に拘らずどこの藩でも旧幕臣でも能力有る者であれば取り立てた。木戸孝允は、「五箇条の御誓文」を仕上げたごとく、「万機公論に決すべし」と、政策決定にいたるプロセスを重視した。大久保は、一刻も早い新しい国づくりの実践を急ぎ、木戸との角逐がときに起きた。
 この大久保の築きつつあった官僚制度を、その後伊藤博文が精力を傾注して整備した。全国から能力だけで選抜する大学制度との直結したシステムを作り上げ、この制度は、見倣ったドイツをしのぎ当時の世界では最も進んだ官僚選抜の制度であったと思う。
 明治近代国家の確立は、大久保・伊藤が築き育て上げた優秀な官僚群が牽引車となって成し遂げたといってもよい。
 しかし、官僚制度、官僚を重視したその大久保が、一方では官の弊害も見逃していない。大久保の眼は鋭く現実を洞察する。

 国策会社であった「日本国郵便蒸気船会社」についてのコメントとして、次のような文言が残されている。
「官ニ依頼ノ過度ナル自立独行ノ志操無ク意ニ成果ノ美ヲ見ル能ハズ」(『大久保利通文書1020』
 さらに、
 佐々木長淳(工部省・内務相勧業寮に出仕。日本養蚕業の発展・近代化に貢献)は、生前の大久保を偲び、次のように述べている。
「(大久保公から)こういう内訓があった。蚕糸業を発達させるには大いに誘導保護奨励等の途を開かねばならぬ。しかるに、もし蚕糸業者に対して、妄りに干渉をすれば、同業者の権利を失わしめ、奸商を跋扈せしめ、国帑(ど)を徒費し、外人の謗りを招く虞れがある。奨励と干渉とはよく似ているが大変な違いだから、注意して混淆せぬようにせぬといけぬと懇々諭され……」(佐々木克監修『大久保利通』)
 大久保は、官営の産業育成に力を尽くす一方で、民間への払い下げも急がせた。明治の「殖産興業」が成功した大きな原因は、官だけでなく極力民の活力利用に意を砕いたことにあった。

 大久保のこれらの言葉は、今日の日本にも適合している。
 安部内閣の「金融、財政、産業」三位一体の政策が動き始めた。これの成功を期待している者として、懸念するのは官の動向である。政策の一つとして、官と民によるファンドを作り、成長産業に力を入れるという政策がある。これに対して、元通産官僚の「みんなの党」江田幹事長が警鐘を鳴らしている。民の優れた人材の智恵を生かしきれず官の智恵だけに陥ると、結局は天下り税金消費機構に終わると。麻生内閣時に鳴り物入りで作られた幾つかの機構の成功率は低いと述べていた。
 財政政策にせよ、成長産業振興政策にせよ、官僚の諸君の活躍奮闘が必要不可欠である。官と民との互いの足らざるを補う関係に意を注力して、江田幹事長の懸念が当たることのないよう頑張って欲しいものである。

 明治の初期に、この官民の微妙なバランスにまで目配りのできた大久保の透徹した観察眼には感服のほかはない。

(平成25年1月18日)

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