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エッセイ・コラム

賞金はアマミノクロウサギに…

西川 武彦

 昨秋、まぐれで、小説現代のショートショート・コンテストに入選した。
 待ちかねたご褒美が届いたのは、そのことを忘れかけていた三ヶ月あとだった。福沢諭吉さんが二枚。祝いの飲み会で仲間と派手にやれば足が出るほどの額だ。ユニクロで欲しかったものを買いまくるのも情けないし、といって年金の足しに貯金するほどでもない。
 考えあぐねていた矢先、『アマミノクロウサギ・トラスト・キャンペーン』の案内があった。英国の伝統ある環境保護活動・ナショナルトラストを範として設立された日本ナショナルトラスト協会の、二十周年記念行事の一つという。筆者はこの活動に共鳴して、創設以来、会員になっており、英国・ウエールズでワーキングホリデイを学び、それを日本で普及する運動をしてきた体験がある。
 世界自然遺産の登録が予定されている奄美大島には、特別天然記念物アマミノクロウサギが棲む豊かな森があるが、それが切り開かれて生息地が失われ、絶滅の危機にあるという。
 で、協会では、約100ヘクタール(30万坪)の民有林を買い取るキャンペーンを始めたのだ。一口1000円で寄付金を募る『みんなの森・コース』と、一筆分の土地の買い取り費用を一口として寄付する『一筆オーナー・コース』という二つのやり方がある。後者の場合、実際の土地所有者は協会だが、寄付者は、「○○の森」と任意の名前をつけられる。
 筆者は後者を選んで、1000坪余りの土地を「買取る」ことにした。今度の賞金と、現役を退いてからJICA絡みのアルバイトで頂戴した小遣いで幾許か残っていたのを合わせたのが、その資金になった。
 森の呼称は、「ご自分の名前でもよいですよ」といわれたが、『ゆめの森』にした。所有権はないから相続はできないが、子孫にご先祖の生き様をこの形で伝え、それを継いでもらいたいという、老ロマンテイストの夢である。
 相続する資産の大小に拘わらず、こういう形で子孫に継ぐ方法もあろう。
 ナショナルトラストによる保全地帯の買取りには、会費で賄う、行政や企業などの補助・寄付等々、いろいろな手法があるが、『一筆オーナー・コース』構想は、日本の恵まれた自然環境や景観の保全を、子孫に継いでもらう実際的手法として、全国でひろめたいものである。

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