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エッセイ・コラム

自転車は一家の破滅を招く

志村 良知

 OBペンクラブの分科会活動のあとは参宮橋の蕎麦屋に流れる事が多い。
 ここでは飲用有機潤滑剤により舌がなお滑らかになって、さらに活発な論議が続く。夕方の開店からほぼ看板まで店の一隅を占拠して大声で論じ合う一団は店にとっては迷惑かもしれないが、月何度か行く常連で、人数も客単価も蕎麦屋としてはそれなりなので許して貰えているようだ。
 その楽しい時間を過ごし、各自の家路に就くのだが、地下鉄組は青少年センターの前を通って代々木公園駅に向かう。この歩道が癪の種。
 数人で歩いていると頻繁に自転車が通る。時間も時間なので年寄りや子連れママさんはおらず、皆若い人である。これが年寄りの酔っ払い集団が邪魔、とばかりに無礼にも後ろからベルを鳴らすのだ。

 自転車のベルは、自動車のクラクションと全く同じ扱いで、他に危険回避手段が無い時、自分の存在を知らせ警告する目的で使う以外の使用を禁じられている。歩道は歩行者の為のものであり、自転車は許可された歩道以外走ってはいけない。走る場合でも無条件で歩行者が優先であり、保護しなければならない。つまり、危険回避は自転車側だけの義務で、手段は唯一停車して降りることである。走りながらベルを鳴らして歩行者を追い払う行為は危険回避とは言わない。
 第一、青少年センター前の道路の歩道には自転車走行許可の表示が見当たらないので、自転車走行禁止で、自転車で走ること自体が道路交通法禁止事項抵触行為である(70歳以上と12歳以下を除く)。

 自転車での道路通行方法は、道路交通法に厳然と定められている。自動車の軽度の道路交通法禁止事項抵触行為は「違反」で警察官によって摘発された場合、その場で青切符により「反則金」というペナルティを課せられるが、送検されたり、裁判にかけられたりはしない。しかし、自転車には反則金制度が無いので、どんなに軽度の禁止事項抵触行為でも警察官により摘発された場合は赤切符の「刑事告発」となる。その先は送検され、裁判で「罰金または科料」に処せられる。つまり、犯罪者扱いになり、程度により戸籍に前科がつく。

 自転車の道路交通法禁止事項抵触行為の例と摘発された時の罰則を挙げると以下のようになる。
 これらを見ると、自転車に乗る時、大人は歩行者の延長、子供は玩具遊びの気分であるのに、法律では自動車と全く同じ運転を罰則付きで強制していることが分かる。

  • 歩行者にベルを鳴らす → 2万円以下の罰金または科料
  • 酔っ払い運転 → 5年以下の懲役又は100万円以下の罰金
  • 夜間、無灯火で走行 → 5万円以下の罰金
  • 2人乗り運転(特例で許される場合あり) → 2万円以下の罰金又は科料
  • 傘を差しての片手運転 → 3ヶ月以下の懲役、又は5万円以下の罰金
  • 携帯電話、メールをしながらの運転 → 3ヶ月以下の懲役、又は5万円以下の罰金
  • 信号無視 → 3ヶ月以下の懲役、又は5万円以下の罰金
  • 並んで走る → 2万円以下の罰金又は科料
  • 禁止歩道の走行 → 3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金
  • 歩行者の邪魔になる → 2万円以下の罰金又は科料
  • 歩行者妨害(歩行者への注意や徐行の怠り)→ 3ヶ月以下の懲役、又は5万円以下の罰金
  • 歩行者に衝突、逃走 → 1年以下の懲役、又は10万円以下の罰金
  • 一時停止違反 → 3ヶ月以下の懲役、又は5万円以下の罰金
  • 故障したまま乗る → 5万円以下の罰金
  • 右側通行運転 → 3ヶ月以下の懲役、又は5万円以下の罰金
  • 歩行者の横を猛スピードですり抜ける → 3ヶ月以下の懲役、又は5万円以下の罰金
  • 徹夜や過労で自転車に乗り、ふらふら走る → 1年以下の懲役、又は30万円以下の罰金
  • 見通しのきかない交差点に徐行しないで突入 → 3ヶ月以下の懲役、又は5万円以下の罰金
  • 前の自転車を追い抜く時、左から抜く → 3ヶ月以下の懲役、又は5万円以下の罰金
  • ハンドサインを出さずに右折、左折、停止する → 5万円以下の罰金
  • ブレーキが無いレース用で公道を走る → 5万円以下の罰金
  • 交差点で右側車線に入り、そのまま右折 → 2万円以下の罰金又は科料

 ご覧の通り、ごく普通に自転車に乗っているだけで、一カ月もすれば累積で終身刑、または破産必至の罰金総額になりそうなくらいに重い罰則が並んでいる。
 実際先日、下校の高校生男子を後ろから見ていたら、ものの20秒くらいで、右側通行、歩行者への注意義務違反、歩行者の脇のすり抜け、自転車を左から追い越し、一時停止違反、サイン無し右折と、懲役なら1年3カ月分、罰金なら30万円分の違反をして走り去った。
 実は、この重すぎる罰則が、警官による自転車交通違法行為の摘発を妨げているという。そういう事なら、自転車にも反則金制度を採用して、年齢に関係なくびしびし取り締まってほしいものである。

 こうした運転で歩行者をはねたりしたら、加害者が子供でも莫大な賠償金を請求される。先日神戸地裁で、5年前小学5年生の時、前方不注意で女性に衝突し今も意識不明の重傷を負わせた少年の保護者である母親に、被害者と損保会社に対して合計9、520万円の賠償金を支払えという判決が出た。
 家族の誰かが自転車で事故を起こしたら一家の破滅ということである。

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