「平和と見せ場」
日本の天才的なPOP歌手と言われている「サザンオールスターズ」の桑田佳祐は、後期高齢者層には必ずしも受け入れられている存在ではないらしい。理由は、その独特の歌唱法と一見ふざけた舞台マナー、更には卑猥な歌詞表現にあるのだろう。しかし、一世代前のPOPファンには、更に若い年代層には、そこが桑田の魅力、真骨頂だと映っているのだ。
昨年6月にデビュー35周年を記念して、それまで休止していた5年間のグループとしてのバンド活動を再開した。桑田の率いるサザンオールスターズが、新しく生まれ変わったように思える。東京、横浜を始め東北各地で催されたライブステージでは老若男女の幅広い層から熱く迎い入れられた。
『蛍』は、『永遠の零』(百田尚樹原作)の映画化に当たって創られたテーマ曲だ。「たった一度の人生を捧げて さらば友よ 永遠(とわ)に眠れ」、「涙見せぬように 笑顔でサヨナラを また逢うと約束をしたね」と詠い、「涙見せぬように 笑顔でサヨナラを 夢溢る世の中であれと」と祈る。
同じく活動再開時に発表された『ピースとハイライト』は特に注目に値する。先ず題名は、例によって日本の煙草の名前を想起させる一見ふざけたKuwataワールドだが、中身は「平和への願い」を歌詞のテーマに据えた政治的メッセージの色合いが強くなっている。これまでの桑田にはなかった姿勢だろう。
第一番は「何気なく観たニュースで お隣の人が怒ってた」で始まる。もちろん、隣人は韓国であることは明白。そして、「今までどんなに対話(はなし)しても それぞれの主張は変わらない」と続く。
第二番は戦後世代が抱き続けた思いを代弁して;
「教科書は現代史を やる前に時間切れ そこが一番知りたいのに……」
第三番以降は、「希望の苗を植えていこうよ…… 未来に平和の花咲くまでは…憂鬱(Blue)」、「歴史を照らし合わせて 助け合えたらいいじゃない 硬い拳を振り上げても 心開かない」、「この素晴らしい地球(ふるさと)に生まれ 悲しい過去も 愚かな行為も
人間(ひと)は何故に忘れてしまう?」。そして「愛することを躊躇(ためら)わないで」
と結ぶ。
桑田はこの作品の制作意図について、「中国、韓国、日本という現代三国志みたいな状況を見ていて、誤解とか不審とか歴史とか恨みとか憎しみがいつまで続くんだろうか? 原発の問題もそうだけど、我々の子供たちの世代や孫の世代、これからの若い人たちにそういう問題をそのまま丸投げしていいのだろうか?」という気持ちを歌に込めたと言い、そんな桑田の思いが広がっていってほしいと語っている。
この『ピースとハイライト』のプロモーション・ビデオでは、サザンオールスターズのメンバーたちが戦隊ヒーロー風のキャラクターに変身したり、安倍晋三、朴槿惠、バラク・オバマ、習近平のお面を被ったエキストラが出演していたりして、少なからずの物議を醸したが、これも桑田らしい演出だろう。事実から離れた中傷と誹謗が詰まったネット「2チャンネル」他でも色々書き立てられたが、桑田の人気の裏返しなのだ。
一見生まれ変わったと見えるが、桑田佳祐とサザンオールスターズの魅力が、その心地よいリズム感に溢れた音楽性と、類稀なエンターテインメントの提供に徹した底抜けのサービス精神であることに変わりはない。
(2014.02.20)