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エッセイ・コラム

老人のつぶやき、後期高齢者健保

玉山 和夫

 我々老人の多くは、死ぬ直前まで普通の生活ができる、いわゆるピンコロリを理想として望んでいる。寝たきりや記憶喪失になってQOL[生活の質]が最悪になり、かつ家族の重い負担になるのを避けたいのである。しかし現実にはどうであろうか。
 日本人の平均寿命は男女ともに世界一かそれに近い。しかし平均寿命と何か自分のしたいことが出来る健康寿命との差は七歳にもなるともいわれ、これも世界一であるが、これは寝たきりか記憶喪失か、それに近い状態の者が世界一多いということで、決して自慢できることではない。これは日本の健康保険制度が手厚い処置を可能にして患者を生き続けさせているからである。これは果たして患者にとって良いことであろうか。
 一方七十五才以上が加入する後期高齢者医療保険の財源のうち被保険者が払う保険料は一割に過ぎず、国の補助五割以外は、健保組合などの拠出金にたよっているが、この拠出金が問題なのである。拠出金の半額は若い世代の社員が払う保険料なのである。
 我々老人は若い世代の負担にならないように気をつけており、老人の利用率が高い医療保険が若い世代の負担に頼っているのは避けるべきで、その為には保険医療費の合理的削減をはかることが急務である。

 私個人としては、自分がやりたいことができない寝たきりの状態になったら、生きている価値はないと考えている。病院のベッドで色々な延命処置を施され、薬の副作用などに苦しみながら生き続けるのは望まない。こうゆう考えの老人は多いのではなかろうか。
 この観点に立って、後期高齢者医療保険に限り、一切の延命処置に保険を適用せず自己負担とすると、患者のQOLを低下させずにピンコロリの理想に少しは近づき、保険の赤字を大幅に減らせると考えた。
 保険の適用をしない延命処置としてとりあげたのは、
1.栄養補給を目的とする点滴など。
2.癌などの手術。
3.癌などの化学療法。
4.患者が危篤状態になってからの注射・手術などすべての処置。痛み止めは保険適用とする。

上記について説明しますと、
1.日本では入院患者には栄養点滴は必ずというほど行われているが、これで患者は食欲がなくなるので、口から食べるようにしむけるべきです。
2.近藤誠氏の著書(菊池寛賞などを受けた)によると、癌を手術した人と、手術しないで放置して経過を観察した人では、生きている時間に差がないとされている。これでは手術を受けた人は、入院や手術後の抗癌薬の投与による不愉快な副作用などに苦しみ、QOLが大幅に低下するだけ無駄な苦悩を経験するのである。高齢者には手術をするべきでないといえるのである。
 癌には放射線治療(X線照射)が、費用が比較的少なく副作用もすくないので保険適用にする。
3.癌の化学療法(注射、内服など)のほとんどに副作用が強く出て患者のQOLがそこなわれる。一般の薬では副作用の強い薬は認可されないのだが、抗癌剤は例外として患者に苦痛をあたえる副作用があっても販売できるのである。抗癌剤を投与して一時的には効果があるが、そのうちに効かなくなるものも多い。

 米国の医療保険は主に民間の会社がやっているが、僅か数ヶ月寿命を延ばすために数千万円かかるものもあるとして、大部分の抗癌剤の使用を認めていない所がおおい。
 保険適用を認めるのは、副作用が軽く、効果が確実(治療してから五年後に半数以上の患者が生存しているなど)で、かつ一連の治療の薬代が五十万円以下とするのはどうであろうか。
4.現行の保険審査では、患者が死亡した月にはどのような処置をしても保険が適用されるといわれている。死にかけている患者を何とか助けてもらいたいという近親者の気持ちに配慮してのことである。
 かって麻生副総理が、このような終末期における治療費が総保険診療費の半分に近い、削減すべきだ、と率直に言いすぎて物議をかもしたことがあったが、まさに巨額なことは間違いない。色々処置されることは患者にとっては苦痛であるから、近藤氏が薦めるように静かに大往生させるべきでないかと思っている

 以上述べたのは老人患者のQOLを重視した提案で、一日でも長く生きたいという人には好まれないが、こうゆう人は本人が希望すれば自費負担で延命治療を受けることができる。保険経済の性質上からは費用を無視してどのような治療でも保険で受けられるようにするのは無理である。現行の制度でも保険が適用されない手術や処置がいろいろあり、すでに制限診療となっているから、この提案はその制限が拡充したものである。この提案は七十五才以上の後記高齢者に限っており、若い世代の人には現行どおりに治療がうけられるのである。
 これからも後期高齢者は増え続き、特に十年後には団塊の世代が加わるから、医療保険の費用は増え続き、政府の目指している健全財政化への障害となる。医療保険制度の合理化は避けて通れないのである。

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