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エッセイ・コラム

外客受け入れのために物申す

西川 武彦

 お彼岸の休日、小さなバス旅行に参加した。小淵沢から十分ほど八ヶ岳山麓を上った富士見高原を起点として、白樺湖方面に向かう。目的地は、中山道の茂田井宿界隈。
 マイカーと違い運転しないから楽だ。バスの座席は、セダンの運転席に比べ背丈ほど高いところにあるから、車窓を流れる景色が姿を変え、ちょっとした発見もある。例えば、次々に目に飛び込む道路標識、看板、広告の類。県道の鉢巻道路を、ペンション村として知られる原村に入る手前で、可笑しな標識を見つけた。「原村」が、“HARA VILLAGE”と訳されているのだ。ハラムラは固有名詞だから、正しくは“HARAMURA” であろう。後日、原村の役場にその旨ご注進申し上げた。
 それで思いだした。中央道をドライブし、大月を過ぎて笹子トンネルを抜けたところに、「日川」という河川の標識がある。ヒカワと読む。筆者が東京と八ヶ岳山麓を棲み分け始めた二十数年前、それは“HI RIVER”と英訳されていた。この方式で訳せば、「荒川」は“ARA RIVER”となり、訳が分からない。
 当時、筆者が上梓したエッセイ集『ウッデイライフの四季 ―八ヶ岳・富士見高原の十二か月』(創樹社)の中で、それを揶揄した。地元の講演会などでも、このことを指摘。暫くして、標識は、“HIKAWA RIVER” と改められた。

 翌日、お墓参りの帰路、山手線大崎の駅ビル内レストランでスパゲッテイを頬張っていると、「ただ今火災報知器が作動しました。目下確認中です……」とアナウンスされ、英語訳が続いた。「なかなかやるわい…」と感服。ところが、数分後、「さきほどの……は問題ないと確認されました…」と、再びアナウンスがあったが、こちらは翻訳なし。隣のテーブルのインド系らしき若い女性はきょとんとした顔をしていた。中途半端なのである。このことは駅ビルにご注進申し上げた。

 訪日外客を年間1200万人から、東京五輪の2020年には2000万人に増やすという国策がある。知らない国を旅する時、自国語なり英語でのしっかりした標識やアナウンスは大変心強いものである。通訳やガイドより助かることが多い。
 細かいことでもなにか過ちに気が付いたら、見逃さずに地元の行政なり施設のしかるべき窓口にご注進申し上げ、外客誘致の一助にしたいものである。

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