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エッセイ・コラム

景観を創る

西川 武彦

 9月10日、柴又は帝釈天の御前様が天に召された。筆者の縁戚である。奥方が従妹なのだ。控え目ながら自己主張がある人物と見受けられた。
 二日後のT新聞に「柴又を愛した『御前様』」と題して、帝釈天について大きく報じられていた。「男はつらいよ」の渥美清さんの世界だ。御前様は、古き良き柴又が開発で変貌する姿に心を痛め、「寅さんのまち」の景観を守る活動に取り組んだとのこと。その一環で、三十年前、区に働きかけて、参道の電線の地中化を実現したという。その後、景観を守りつつ地域を盛り上げる路線はしっかり受け継がれているそうだ。今頃、天国で寅さんと今時の世相を揶揄っているかもしれない。

 月が変わって10月半ば、紅葉の北海道を訪ねた。ほぼ三十年前、札幌に三年間駐在した頃の仲間たちが、OB・OG会に招いてくれたのだ。夜のパーテイに先立ち、当時支社があって今は再開発された跡地をぶらついた。これまた身内の話で恐縮だが、M不動産に、「コレド日本橋」など都市の再開発プロジェクトを担当している甥がいる。彼がリーダーとなって進めていることを聴いていたのだ。
 一帯は、札幌駅南口から大通をすすきの方面に数分歩いた右手にある。事務所があった三井ビルと、それに面して、大通と赤れんが庁舎を結ぶ100m弱のイチョウ並木。
 ありきたりの舗装だった並木道は幅を拡げてレンガ色に変わり、人波が絶えない。「赤れんが」の格好のシャッター・ポイントになっている。ゆったりした木製のベンチが両側に並ぶ。電信柱も電線もない。洒落ている。ビルは五階建ての「赤れんがテラス」に生れ変わり、ショップ・レストラン・展望ギャラリーなどで賑わっていた。外壁は勿論レンガ色。  
 筆者の机があった2Fの一角はパーラーと化していた。そこに小一時間陣取り、赤ワインのグラスを傾けて感傷に浸った。

 東京五輪を視野に入れて、首都の構造改革が進みつつあるが、外客誘致のためにもお洒落感覚を忘れないでほしい。

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