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エッセイ・コラム

梵我一如

斉藤 征雄

 バラモン教の聖典ヴェーダの中の、ウパニシャッド(奥儀書)と呼ばれる文献に書かれた思想をウパニシャッド哲学という。その中心となるのは輪廻と業の思想である。

 最初は、死後霊魂は月にのぼるがやがて雨になって地上に降り、地中に入って食物となり男性に食べられて精子になり、それが母体に入って再生すると考えられた。これに因果応報の業の思想が加えられて、生前に善い行いをした者はバラモンなどに再生するが、悪行をしたものは奴隷や畜生、虫けらなどに生まれ変わるというのである。
 さらにそれが次のように発展する。

 人間個体の本質をアートマン(自我、霊魂)と呼ぶ。人が死ぬとアートマンはそれまでの個体から抜け出して新たな母胎へ入って再生する。再生するときアートマンは前世の業を背負っている。アートマンは輪廻転生するので、不死であり不変の実在として位置づけられる。
 輪廻からの解脱はどのように考えるのか。
 人が普通自己と考えるものは、欲望に支配されているので虚妄のものである。人が瞑想し意識を集中して自己の内面を見れば、神秘体験として真の自己であるアートマンを確認することができる。そしてアートマンは宇宙の絶対者ブラフマン(梵)と同一であることを観ずるだろうという(梵我一如)。
 ブラフマンは、全宇宙の万物を創造した絶対者であり宇宙の全実在であるから、個の実在アートマンはその一部なのである。つまり個体の本質アートマンが最高実在ブラフマンと同一であることを自己の内面において見出した時に、ブラフマンの力によって輪廻の鎖が断たれると説く。
 わかりにくい。神秘体験の無いわれわれが頭で理解しようとしても難しいのかもしれない。

 この哲学は、以後ヒンズー教に継承されてインド哲学の最も有力な思想になった。特に自我の実在と霊魂の存在を認める考えは、無我を主張する仏教と対極にある。その点で仏教はバラモン教のアンチテーゼとして生まれたともいえるのである。

(仏教学習ノート①)

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