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エッセイ・コラム

800字エッセイの書き方(その一)

池田 隆

 企業ОBペンクラブの「何でも書こう会」のメンバーは物書きが好きな素人の集まりである。プロの書き手が居ないせいか、各人の発表に対し様々な質問や意見が飛び交い、いつも自由な雰囲気となる。
 四年前に私は仲間入りした。その時から今までに、千編ほどの出席者の作品朗読を聴き、自らも約八十編の発表を行った。エッセイの書き方についても、仲間同士で交わされる数多くのコメントを聴いてきた。
 それらを無為にするのは勿体ない。自分なりに取捨選択し、自らの執筆中に気づいた事項も加えながら、箇条書きスタイルで「800字エッセイの書き方」に纏めてみた。
 年初恒例の「何でも書こう会」の合宿研修会でこれを紹介したところ、多くの賛同も頂いた。今後、800字エッセイを執筆する際のチェックリストとして使っていくつもりだ。

800字エッセイの書き方

《構想推敲編》

  • ジャンルは、紀行、思い出、文芸紹介、時評、提案、啓蒙、伝承、小話、日常の一コマ等々、何でも自由。ただ主題は一つに絞り、欲張らない。紹介や啓蒙の場合も、自分独自の思いや表現を加え、ユニークさを出す。転載や要約のみの文章とはしない。
  • 自身の失敗経験談は無難な題材となる。一方、成功談や努力談は、ややもすると自慢話と受け取られる。
  • 絵図を用いたいと思っても、あくまでも文章のみで表現する努力を。図表を添付するときは、それを除いても文意が十分に通じるように。
  • 思いついたら、すぐに書き出す。間を置くと文章の迫力が欠けてくる。
  • 読み手の顔を思い浮かべる。対象者を広げ過ぎると、表現がくどくなり、冗長な文となる。読み手の読解力、想像力に期待することも大切。
  • 専門的な内容の場合は、中高生相手に話す気持ちで書く。レベルや正確性がやや犠牲になってもやむを得ない。
  • 書き手としての立ち位置を決める。上からの目線は感情的な反発を受けやすい。第一人称で書くと、読み手から親近感を持たれる。自分の感情移入を避けるには第三者の視線で。
  • 時間経過に沿った文章構成が原則。時系列を逆転する時はそのことが容易に分かる工夫をする。
  • 「起承転結」の四部構成が文章の基本パターン。特に転と結が大切である。三部構成にする場合は、「序破急」で。
  • 執筆中に当初と論理構成や趣旨が違ってきた時は、最初から構想を練り直す。
  • 文章構成を頭に描き、各範囲の大凡の字数を予め想定する。1000字程度の文章を、推敲しながら800字に調整するとやりやすい。1200字以上の文を800字に詰めると、飛躍が多く、まとまりを欠く文になりがち。一字一句の必要性を吟味し、一文一段落ごとに言い換えを工夫して字数調整を行う。主題の記述部分が過半を占めること。
  • 推敲は繰り返すほど良い。日を改めて行うのも効果的である。音読しながらリズミカルな文になるように、長文と短文の配列や句点の位置に留意する。PC画面上の推敲だけでは気がつかないことがある。最後は印刷した紙面で推敲を。

《記述編》

  • 題名や書き出しは読み手の気持ちを誘う語句や文にする。終わりは映画のラストシーンを思い浮べ、気の利いた表現にしたい。
  • 会話体や固有名詞は実情感を与える。韻文や格言の挿入、ユーモアある表現は読み手の気分転換に効く。隠喩法(メタファー)は文章に深みを与えるが、皆がそれに気づくことを期待しない。
  • 難しい漢語などの抽象語、概念語は具体例を示し、頻用を避ける。擬声語や擬態語は微妙な状況描写に有効である。述語や修飾語の慣用表現は文を落ち着かせる。
  • 専門語、業界語、差別用語を極力避ける。使う場合は注記する。
  • キーワードを除き、同じ語句の重複使用を避ける。同意語を思いつかない時には辞書を引く。
  • 受身表現は文を和らげるが、切れを悪くする。「…と思う」や「…という」、「…だろう」などの表現も同様である。
  • 一般に代名詞の使用は極力控える。用いるときは、一貫して同じ事物や人を指すように。特に代名詞の主語は省き、述語から容易に分かる文とする。会話文を除き、文ごとに主語を安易に変えないこと。
  • 長文では主語と述語の離れ過ぎに注意する。副詞、形容詞なども出来るだけ修飾する語の近くへ。
  • 関係代名詞的な形容詞句や順接の接続助詞「が」を用いると、長文になり過ぎることが多い。極力控えた方が無難。
  • 「です、ます」調や「である」調に文章を統一するのは当然だが、同じ末尾の連続は避ける。それには動詞、形容詞、助動詞、助詞、体言止めなど、多様な述語形を用いる。
  • 抽象的な形容詞、副詞は比喩表現や具象表現によって言い換える。
  • 読み手の思考に合った文章構成にして、接続詞を減らす。数行毎に意味の切れ目を入れ、その冒頭で一字下げ、段落とする。転や結を明確にする時は一行あける。
  • 漢字と仮名の各々を長々と続けない。両者の割合は内容が硬めの時は漢字を、軟らかめの時は仮名を多くする。
  • 日本語の疑問形は微妙な感情表現である。外国語で用いる疑問符?や感嘆符!は縦書きの和文にはあまり適さない。
  • 括弧内の終わりには読点不要。段落の終わりに括弧文がくる場合には、閉じ括弧の後に読点は不要。段落始めに括弧文がくる場合には冒頭で一字下げをしない。著名でない文献名は二重括弧で示す。
  • 漢数字使用を原則とする。ただし漢数字表記にすると、馴染みが悪いとき等には、適宜アラビア数字を使用する。
  • A4紙一枚、縦書きとする。左右上下の余白、行数、文字数、フォント、行尾揃え等に気を配り、印刷する。

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