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エッセイ・コラム

今様二刀流に拍手!

西川 武彦

 長野県に42歳の女性副知事が生まれる。人柄優れた美人である。
 2月7日、八ヶ岳南麓の山荘から富士見町に下り、図書館で新聞を捲ると、信濃毎日新聞と長野日報が、「長野県の副知事に中島、太田氏…」と大きく報じていた。
 中島恵理さんは、京都市出身で、京大から現環境省に入庁したキャリアだ。二児の母親で、現在は、東京と富士見町の二地域居住をしている。連れ合いの早川秀策さんは、富士見町で農業しながら、小学生の男児と保育園の女児を育てている。彼女は週末・祝祭日に戻るというパターンらしい。
 環境・自然エネルギー分野が専門で、上智の大学院で地球環境学の准教授も務めている。子育てしながら地元でも活躍する、最先端を行く女性の一人だ。
 旦那の秀策さんは、なにかと凄い男で、例えば、二階建ての立派な木造家を、木材の切り出しに始まり、試行錯誤しながら、自分の手で完成させてしまった。

 筆者が二人と知り合ったのは、十数年前、別荘村を代表するような形で、富士見町の町づくり中期計画に関わっていた頃である。筆者は、内外で見聞・体験したことを基盤に、景観条例などでなにかと発言。改革派の早川青年に、相通じるものを感じたのがきっかけだ。
 その頃、新婚間もない恵理さんとも彼を通じて知り合った。
 当時、八ヶ岳山麓の富士見町では、若者の流出や老齢化などで、休耕田が目についた。
 で、筆者は、景観保全のためにも、早川氏の伝手で、二区画を借用、仲間を募って「田圃倶楽部」を創り、稲作を始めた。指導者は勿論、秀策さん。標高1100メートルの高地だから、お米の種類、田植え、稲刈りの時期等々なにかと制約がある。都会から富士見に戻った早川青年は、新しい生き方と自己流農業に挑戦していた。
 稲作も、苗造りから始まり、すべて自己流にこだわる。我々の田圃は試験台にされている感じもある。彼の試みが躓くと、お米の出来も悪いようだ。東京から戻った恵理夫人が、幼児を連れて、田圃を覗きにやってくることもある。
 冬の薪は、彼の手作りを超廉価で分けて貰っている。主が不在だと、勝手に車に積み込み、お代は約束の場所に残して去る。先日そこで薪を選んでいたら、軒には、射とめたらしい鹿が、血を滲ませてぶら下がっていた。鹿料理にも挑戦するのであろうか。

 黒野伸一著『限界集落株式会社』(小学館文庫)がベストセラーに入り、NHKでドラマ化されている。長野県の山里が舞台だ。サラリーマンを辞めて起業を前に一時帰郷した男性が、過疎・高齢化した限界集落を見て、地元の零細農家の父娘、田舎に逃げてきた都会の負け犬たち等々と農業経営する逆転満塁ホームランのエンタテインメント小説だ。
 形は違うが、新しい生き方に挑戦している「女性副知事」一家を、陰ながら応援したい。

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